Voice

-005.日本語の音

谷川俊太郎

<子どもは眠る>

 

父親が眠るその同じ夜を
小さな息子も眠っている
象形文字のように腕をひろげ
寝息もたてず深く眠っている
 
息子がどんな夢を見ているか
父親はついに知り得ない
父親にできることといえば
盲目のように寝顔を見つめるだけ・・・・・
 
だがその愛がいつか息子の夢を育てるのだ
ひとりぼっちの夢
宇宙の胞衣いっぱいの未来を

夜が明ける
一日がはじまる
まわらぬ舌で息子は云う〈おはよう〉


 

 

Tanikawa Shuntaro たにかわ しゅんたろう

詩人 /2007年2月版 1931年,東京生まれ。都立豊多摩高校卒。

1952年、第一詩集『二十億光年の孤独』出版。

以後詩、エッセー、脚本、翻訳などの分野で文筆を業として今日にいたる。

詩集に『21』『落首九十九』『ことばあそびうた』『定義』『みみを すます』『日々の地図』『はだか』『世間知ラズ』『minimal』など、エッセー集に『散文』『ひとり暮らし』、絵本に『わたし』『ともだち』『もこ  もこもこ』などがある。

谷川賢作との共演も多く、CD『クレーの天使』『家族の肖像』などが出ている。

最新刊は詩集『すき』『歌の本』『詩人の墓』『写真ノ中ノ空』『私』など。