-002.Fabrice Le Bourdat

バスティーユからほど近く、下町のような雰囲気で活気のある ルドリュ・ロラン界隈。小麦と粉、という意味をもつ「Blé sucré(ブレ・シュクレ)」はこの地元の人々から愛され、絶大な人気を誇るパティスリー&ブーランジュリーです。緑あふれる小さな公園の目の前にあり、子どもたちの遊ぶにぎやかな声が聞こえ、公園を利用する家族が立ち寄ったり、普段使いの常連客、遠くからやってくるファンなど、足を運ぶお客さんが後をたちません。オーナーの Fabrice Le Bourdat(ファブリス・ル=ブルダ)氏は、数々の星付きホテルで経験を重ね、プラザ・アテネ、ル・ブリストルではスーシェフとして腕をふるったパティシエ。約20年間に渡る星付きホテルでの経験を糧に、2006年10月に自身のお店をオープンさせました。小さな店内の正面にはパティスリー、そのショーケース上には焼き菓子、レジの横にはクロワッサンなどのヴィエノワズリーなどが置かれ、街のお菓子屋らしい品揃えです。しかし他と違うのはその質の高さ。美しい仕上がりのケーキ、見事な層をしたクロワッサンなど、洗練されたお菓子たちは、ホテルで修行したときと変わらないレベル。「ホテルであろうと、街のパティスリーであろうと、私は同じことをして、同じレベルのお菓子を作っています」とル=ブルダ氏。「怒ってるかも・・」と一見無愛想に見えるシェフですが、温かく心の広い人物であることが、お客さんへの接客や挨拶を見ていて伝わってきます。

 

5歳のときからなりたかったパティシエ
いつも家でお菓子を作ってくれていたことから母親の影響から、パティシエの仕事を志したのは5歳のとき。両親の庭で採れた苺を使った『庭苺のタルト』が子どもの頃の味、と語るル=ブルダ氏。家族から受け継いだ食については「タルト、ガトーショコラ、キッシュなど、母親はシンプルなものをよく作ってくれました」。大人になった今の味は、トップパティシエたちが最近盛んに取り組んでいるパティスリーのひとつ『ババ・オ・ラム』だそう。その理由はとってもシンプル。「好きだからです。おいしいですから」。現在の労働時間は、朝の2時から夕方16時、その後1時間、一日15時間。肉体的にも精神的も大変そうですが「仕事に対する情熱があるから、つらいとは思いません」ときっぱり。自身のお店を「ものごとをきちんとする」と表現することからも、職人の心意気が伝わってきます。お菓子作りはもちろん、お客さんのもてなし・・お店のあらゆることをきちんと行う、それがブレ・シュクレというパティスリーなのです。

しっかりお菓子を作ること:Bien faire la pâtisserie
次世代のパティシエたちに伝えたいお菓子はありますか?の問いに「それはお菓子ではありません。"しっかりとお菓子を作ること"です。」とル=ブルダ氏。「それはお菓子をつくる上で、ひとつひとつの工程をしっかりすることです。材料を混ぜて、焼き上げて、デコレーションをするというひとつひとつの工程をしっかり行うこと。それがお菓子作りの基礎です」。例えばクロワッサン。「材料をしっかりこねて、生地をのばして、成形して、しっかり焼く、といった全て工程をひとつでも怠ったら、おいしいクロワッサンはできないでしょう?」。そして「しっかり掃除すること。これも大切です」。職人気質のシェフの言葉は、クリエイションだけを追求しがちなパティシエたちへのメッセージ、そしてパティシエという職業において忘れてはならない大切なことなのかもしれません。そのル=ブルダ氏の右腕としてスーシェフを務めるのは土谷 豪(つちや・すぐる)さん。フランスでパティシエとして働くことに対する想いと努力が、語学力、仕事として現れ、シェフから絶大な信頼を寄せられています。次世代を担うパティシエのひとりである土谷さんは、サロン・デュ・ショコラで2年に1回開催される、権威あるパティスリーのコンクール「シャルル・プルースト杯」に出場します。「出場するからには、いつも優勝するつもりで臨んでいます」と、はっきりと語るその姿から、ル=ブルダ氏のメッセージを受け継いでいるような気がしました。

 

りんごの形をしたタルト・タタン
全てがスペシャリテだというお菓子は新鮮さが信条。その中でも「かわいい!」と目を引くのが、ころんと丸い形の「タルト・タタン」。りんごのヘタが付いている、りんごの姿をしたタルト・タタンです。作り方は、ドーム型の焼き型にキャラメルのパスティーユ(飴)を入れ、スライスしたリンゴを敷き、その中央の穴の中にバターを入れて、1時間焼き上げます。そして、タタンの生地といえば通常はパイ生地ですが、ここではブルターニュ地方の出身のシェフのアイディアでサブレ・ブルトンを使用。別々に焼き上げたリンゴとサブレを組み合わせて完成です。ナイフを入れると、崩れることなくすーっと切ることができるとろけるようなリンゴ、ざくざくのサブレの食感のコントラストが見事です。四角い形のモンブランや、季節の果物を使ったタルト、お店の通りの名前のついたショコラのムース、クロワッサンやショソン・オ・ポムなど、人気者が多数。ホテルや有名パティスリーと同じレベルながら、値段はその約半分。作る場所がどこであろうと、全力で仕事に取り組むル=ブルダ氏。自身のお子さんには「しっかり食べることを大切にしてほしい」と語る、父親の顔の一面も。彼のような職人がいることを心から嬉しく思いました。

 

Fabrice Le Bourdat(ファブリス・ル=ブルダ)
1966年10月5日生まれ。ブルターニュ地方、ナント出身。血液型不明。
ビアリッツ「ホテル・デュ・パレ」、カンヌ「ホテル・マルティネーズ」を経て、パリ「プラザ・アテネ」「ル・ブリストル」ではスーシェフとして活躍。その約20年間の経験を糧に、2006年に自身のお店「Blé Sucré(ブレ・シュクレ)」をオープン。2008年には人気グルメガイドブック「Pudlo(ピュドロ)」にて今年のパティシエに選ばれた。

Blé Sucré(ブレ・シュクレ)
7 rue Antoine Vollon 75012 Paris
Tel : 01 43 40 77 73
営業時間:7:00~19:30(火~土)、7:00~13:30(日)
定休日:月
メトロ : Ledru-Rolin 8番線
HP:http://www.blesucre.fr

column by 齋藤弓子/Yumiko Saito
わたしたちの生活の根底にある「食」
健康だけではなく人との繋がりや「楽しみを分かちあう喜び」も与えてくれます
料理人、パティシエ、パン職人、生産者、チーズ屋さんなどなど
その食に関わる世界で働く人たちが「次世代に伝えたいもの」をご紹介します