-001.Nicolas Mouton

パリ17区のプランタン通りにあることから付けられた店名「La Fourchette du Printemps(ラ・フルシェット・デュ・プランタン)」。2009年9月にオープンし、2011年からミシュラン一つ星を獲得したレストランです。「最初のコンセプトはビストロだったんです。ほら、テーブルの上にはナプキンがないでしょう?でもミシュランがレストランとして星を付けたので・・ちょっと困っているんです。」と笑うのは、オーナーシェフのニコラ・ムトン氏。パティスリーを担当するセドリック・デルヴァー氏と共同経営のこのお店は町外れの静かなところにあるにも関わらず、食いしん坊たちの間で評判になっています。壁には野菜の絵が掛けられていて、当初は赤色だった椅子もグレーに変化。店名のフルシェット(フォーク)の形をした針の時計がかわいらしく、リラックスできる空間となっています。友人、家族連れ、外国人の他に、中にはお抱え運転手が迎えにくるムッシュの姿も。お客さんによってお店の雰囲気が変わりますが、心地よい空気感は残ったまま。昼のサービスはイングリッドさんひとり、夜はふたりで担当。調理場は4人でいっぱいというコンパクトさ。助手の2人を入れて、全部で4人ほどで32席を回しています。

 

3日間続く『ブランケット・ド・ヴォー』

文学など他の友達が普通の学校で学ぶことには全く興味がなく、偶然から料理の学校を選んだムトン氏。家族に料理人や食関係の人はおらず、「すごい料理人になってやる」などという大きな野望もなし。小さい頃になりかった職業も特になかったといいます。「でも他の人とは同じことがしたくありませんでした」。そんな彼の「子どもの頃の味」はお母さんが作ってくれた「ブランケット・ド・ヴォー(子牛のクリーム煮)」。日本のカレーのような存在の料理です。「土曜日に作って、次の日はアッシュ・パルマンティエ(挽肉とじゃがいものオーブン焼き)にしたりと、月曜日まで3日間食べるんです。食材を無駄にしない、経済的な料理なんですよ」。家族から受け継いだ料理は「特にありません。でも良い肉、良い野菜、良いワインがいつも食卓にありました。そして私の出身地は海に近いので新鮮な魚が手に入り、釣りもよくしました」。「カスレもよく食べましたが、トゥールーズのように油をたくさんつかったり、グラタンのようにはせず、トマトを加えたりしてあっさりとしたものにしていました」。そして大人になった今、好きな料理は何と「ピザ」。「休みの日は料理をしたくないし、料理人はピザのような体にあまりよくないものが好きなんですよ。」といたずらっこのような表情で答えるムトン氏です。

 

次世代に残したい一品『Paleron braisé』

牛肉の煮込み「Paleron braisé」は6月のメニューの主菜のひとつ。これを選んだ理由に「伝統的フランス料理のひとつ。そしてレストランやガストロノミーのお店ではほとんど見ることがないからです。ビストロによく登場する料理で”おばあちゃんの料理”とも言われています」。ムトン氏は牛肉を12時間、赤ワインのコート・デュ・ローヌで煮込みます。そのスプーンで崩せるくらいに柔らかくなった肉を、野菜とともに保温性の高い「Staub」のココットに入れてサービスし、あつあつのお皿に各自で取り分けます。ねっとりとしたゼラチン質とほろほろの繊維質の部分、そして色とほどよい食感を残した野菜の味わい。じゃがいもはみずみずしく、肉と野菜のおいしさが一緒になった、洗練されたビストロ料理です。

 

シンプルなものほど手間がかかる

「シンプル」と自身の料理を表現するムトン氏。「シンプルなものにするには手間がかかります。複雑なものにすることは簡単です」。毎日変わる食材の状態、素材選び。野菜を調理するにしても「どうやったらきれいな色を保てるか?」「おいしさを引き出すには何度で、どれくらい火を通すのか?」そして同じ野菜でもそれが前菜なのか、主菜の付け合わせなのかによっても調理方法は変わってきます。「花で散りばめられたり、大げさに飾られたものは好きじゃない。これ見よがしのお皿は好きではありません」。シンプルな作業を突き詰めて、丁寧に積み重ねたものがこのお店の料理なのです。

 

前菜、主菜、デザートとそれぞれ4種類あるメニューは1ヶ月ごとに変わります。6月のある日は、お通しトマト、パプリカ、キュウリの生あたたかいガスパッチョ。前菜のフォアグラの「ミ・キュイ」は厚みがあり、ナイフを入れるとずっしりとした感触。口に運ぶとじわじわと溶けていきます。添えられたオレンジと洋梨のチャツネがそのおいしさを引き立てています。デザートはキャラメル風味のムースに、ショコラのガナッシュとピーナツ風味のマカロンを重ねたもの。食感のあるプラリネと層になったキャラメルのほろ苦さ、ショコラの酸味と風味、マカロンのねっとり感とナッツの香ばしさ。食後に出されるパッションフルーツとショコラのマカロンは「エルメのものよりおいしいでしょう?」と、にやりと笑うムトン氏。どれも洗練されたシンプルなおいしさが際立つものばかりです。どのお店にもファンがいるものですが、ここのお客さんは「5年後にはもっとすごいシェフになるよ」と太鼓判を押します。そんなシェフですが、「映画に行ったりするよりも、小さいビストロに行ってリラックスする方が好きです」。でも一番好きなのは「睡眠」だそう。春だけではなく、夏、秋、冬と年間を通して通いたいお店です。

Nicolas Mouton(ニコラ・ムトン)

1978年3月26日生まれ。ノール=パ・ド・カレー地方、ダンケルク出身。0型。 

ベルギー、サヴォワ地方、「ル・クリヨン」「ル・ブリストル」などの星つきレストランで修行。モナコのある家族の専属シェフも経験。

2007年に料理専門雑誌「le chef」で期待の若手料理人に贈られる「今年の期待シェフ」賞を受賞。

 

La Fourchette du Printemps(ラ・フルシェット・デュ・プランタン)

30 rue du printemps Angle 27 bis Bd Pereire 75017 Pairs

Tel:01 42 27 26 97

営業時間:12:00~14:00/19:00~22:00(火~土)

定休日:日、月、8月3週間

メトロ:Malesherebes 3番線

 

column by 齋藤弓子/Yumiko Saito

わたしたちの生活の根底にある「食」

健康だけではなく人との繋がりや「楽しみを分かちあう喜び」も与えてくれます

料理人、パティシエ、パン職人、生産者、チーズ屋さんなどなど

その食に関わる世界で働く人たちが「次世代に伝えたいもの」をご紹介します

 

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コメント: 1
  • #1

    yuko_mayte (日曜日, 02 12月 2012 17:36)

     初めまして、私はYukoです。パリに到着して2週間、誰も友達はいない、仏語もできない、料理もこちらでは作る事ができない、そんな時 このホームページを知りました。 私も食べる事には興味があり、食べる事が大好きです。どうぞ、宜しくお願いします。