あなたの夢も今すぐ叶うかも⁈ 私の夢を最短で叶えてくれた映画『Ballerina』

  日本を筆頭に、世界で絶賛上映中のフランス・カナダ合作映画『フェリシーと夢のトウシューズ』。時は19世紀末、フランス・ブルターニュ地方の孤児院でバレリーナを夢見る少女、フェリシー。バレエを習った経験はゼロ、ダンスをこよなく愛する主人公のフェリシーが、従ったのは自身の熱いパッション、オペラ座の舞台にバレリーナとして立つことを目指し、いざパリへ。果たして彼女の夢の行方はいかに……⁉︎ という感動のドリーム・ムービー。仏題は『Barellina(バレリーナ)』として昨冬、フランスでスマッシュ・ヒットを記録した傑作だ。パリ在住の私には『Ballerina』という呼び名の方が馴染み深いため以下、『Ballerina』でお届けしよう。

 

  2012年に第1子を、そして2014年には第2子を出産、妊娠期間を踏まえ約5年以上、専業主婦として育児に励んできた私。しかし、図らずも家庭内のトラブルがみるみる悪化した昨年2月。フランス・TVのキャスティング・ディレクターから度重なるスカウトを受けたことを契機に5年前、たった半年間だけ行なったパリでのタレント活動を記した履歴書を片手に、フランスのTV・映画をメインに撮影復帰……‼︎  

 

  その活動を通じて出逢ったのが、フランス・ヒップホップ・シーンのレベルの高さを世界に知らしめた1995年のフレンチ・ムービー『La Heine』の当時の制作スタッフであり、フランスで最も人気のTV局、TF1のプロジェクト・チーフだ。彼から昨秋、今作『Ballerina』の監督であるアメリカはナッシュビル在住のエリック・サマー氏をご紹介していただき、エリック監督と交友関係を育むことになる。

 

  折しも、私が離婚を決意したタイミング。シングル・マザーとして日々、離婚の手続きや政府に要求される書類の手続きに終われる中、たまたま観たのがエリックが手掛けたアメリカの新作TV・ドラマ『Cristal Inferno』のトレイラーだった。躍動感あふれるエリックのカメラ・ワークや続きを今すぐ見たくなる予告にグッと来た私、その感動を監督に伝えると、思いの外、エリックからこんな解答が。

 

「 ありがとう‼︎  ところで君は『Cristal Inferno』と『Ballerina』のトレイラー、どちらを見たの⁈」と。

 

  実は、クラシック・バレエ歴は10年の私。3歳の頃、バレリーナの頂点〝エトワール”になることを決意して以来、すべての時間をバレエのレッスンや舞台に費やしてきた過去があり。多感な10代、命を賭してきたバレエへの挫折感は、つい最近まで莫大なトラウマとして疼いていたほど。しかも、我が家の息子たちから、これ見よがしにアニメーションに付き合わされている毎日。監督には申し訳ないが正直、できることなら避けたかったバレエを題材にしたアニメ映画『Ballerina』……。しかし、当時から既に監督の慈愛に満ちた人柄やピュアなエスプリにノック・アウトされていた私はこう答えた。

 

「私が観たのは『Cristal Inferno』。しかし過去、エトワールを目指すほどバレエに情熱を傾けてきたの。だから、これからパリで上映される『Ballerina』を観に行きます」と。

 

  そんな私がどうしたことだろう。約束どおり『Ballerina』を観に行き、上映開始からものの5分でまさかの号泣……⁉︎  なぜなら、バレエを習った経験もなく、ただただダンスが好きで、"これこそ私の人生!"と信じ、夢に向かってひたすら突き進む主人公フェリシーの姿は、3歳でクラシック・バレエの舞台を観た瞬間、バレエ界のエトワールになろうと決意した私自身、そのものではありませんか…‼︎ ストーリーが展開するに連れ、蘇ってきたのは、無我夢中でのめり込んでいく、自分の純度100%のダンスへの情熱、ひたすら自己との闘いに挑んできたあの日々ーー。当時の私は、“果たして自分には才能があるかどうか?"などと躊躇したり、頭で考えたことは一度もなかった。なぜなら、私が従っていたのは常に"ハートの声!"だったのだ。

 

"それほどの情熱を傾けられる対象を見つけることこそ、"生きる"ということ。

 

そのような経験のない人生など、なんの色味があるのだろう……?"

 

  そう今作を観てあらためて思った私は、一念発起‼︎  第1子出産の際は帝王切開、第2子妊娠中は30㎏以上増加、プロとしてダンスを踊ることなど到底、考えられない状況が長年、続いていたのだが、バレリーナ以降の最大の夢、2010年の映画『Burlesque』の主演、クリスティーナ・アギレラのごとくショウ・ガールの頂点としてフランス映画でダンスを披露したい、という私の壮大かつ儚い願いを想起……‼︎  そして、『Ballerina』を観てからちょうど半年後、数多の現役プロ・ダンサーを押し退け、アラフォーの私が難関オーディションを突破。映画『イヴ・サンローラン』でイヴ・サン=ローランを演じ、セザール賞最優秀男優賞を受賞したピエール・ニネ主演の最新フランス映画内にて、ピエールが観客として私の目の前に着席する中、私はクラブのトップ・ショウ・ダンサーとして見事、独壇場のダンス・パフォーマンスを繰り広げることができたのだ。

 

  つまり、今作『Ballerina』が一度は諦めかけた私の夢をあっさり実現、長年抱いていたバレエへのトラウマをも解消させてくれたのだ。それほどまでに観る者に勇気を与えてくれるこの映画を、どうにかして世に広めたい、と思っていた矢先。なんと最初はフランス国内でのみ公開されていた『Ballerina』が、またたく間にEU各国をはじめ、ロシア、中国、アメリカ、そして日本におよぶ全世界で展開……!  エリック監督の快進撃はまるで『Ballerina』の主人公、フェリシーそのもの‼︎   誰しもが"自己実現、あるいは夢に向かって必死なんだ! そして、その願いは必ず届く……‼︎"ということを、意図も鮮やかに監督自身が私に見せつけてくれたのであった。そんなエリック・サマー監督と緊急対談。きっと、フェリシーに匹敵する彼の果敢なアティテュードを汲みとっていただけるだろうし、このインタビューを通じてあなたの最大の夢を叶えるきっかけが与えられたら光栄だ。

ーー 過去、日本でも放映されていた私の母も大ファンの『女警部ジュリー・レスコー(JULIE LESCAUT)』をはじめ、『Profilage』、『Alice Nevers,Le juge est une femme』など。フランスのTV局"TF1"を代表する名だたる長寿ドラマのディレクターを務めてきた監督。『Ballerina』が初のアニメーション・ムービーのようだけど?

 

エリック「そう、『Ballerina』は偶然の産物なんだ。僕の仕事のメインはアクション・ムービー、かつてアニメーションを手がけたことはなかったね」

 

ーーゆえに、バレエ映画に挑んだ理由が、とても興味深かったのだけど?

 

エリック「フェリシーのインスピレーションは、僕が過去、ディレクターをつとめたTV・ドラマの収録がきっかけなんだ。そのドラマの主演女優は当時、離婚したばかり。彼女はスケジュールの問題で撮影現場に時々、彼女の娘を連れて来ることも。状況的に、そうせざるを得なかったんだよね。彼女の娘は当時7歳、フェリシーと呼ばれていた。フェリシーはあたかもバレエを踊ってきた矢先のごとく、バレリーナのフル・セットの装いでスタジオにやってきたんだ。このイメージが僕の脳裏に鮮明に焼きつき、バレリーナへのインスピレーションを与えてくれたんだよ」

 

ーーまさか、そんな背景があったとは……‼︎  "そうせざるを得なかった"とは言え、子連れで行くことは、許されぬフランスの撮影現場。よって、主演女優や娘さんの背景を汲みとり、心を震わせていた監督の当時の様子が容易に想像できるし、あらためて監督と交友関係を築いてきて良かった!と思いました。

 

エリック「そんなインスピレーションから数年前に、孤児の幼女、その名もフェリシーがバレエ・ダンサーを夢みるストーリーの脚本を書き上げた時、"これは良質なコミック・ブックになるだろう"と思った。その後、グラフィック・デザイナーのエリック・ワリンと出会い、彼から提案されたんだよ。"この脚本をもとにアニメーション・ムービーのプロジェクトとして、共同制作するのはどうだろう?"って。」

 

ーー舞台をパリに選んだ理由は?

 

エリック「ピクサーが『Ratatouille(邦題 : レミーのおいしいレストラン)』を制作した際、アメリカ人はインスピレーションの源泉のひとつとしてパリを舞台に選ぶんだな、と思った。ならば、僕らがパリを舞台にした映画を制作するのがベストだなって! なぜなら、僕はフレンチだから」

 

ーーごもっとも(笑)。

 

エリック「そこで僕は再びシナリオに戻り、手を加え、ストーリーを進化させていくことに。注目すべきは『Ballerina』が、完全なオリジナル作品だということ。このストーリーはすべて僕自身に自然な流れで降りてきたギフトなんだ」

 

ーー19世紀末という時代背景を選んだ所以は?

 

エリック「『白鳥の湖』が構成されたのは1876年。そして『Ballerina』は約1880年が舞台。つまり、この映画は『白鳥の湖』が世に現れた時代より、さらにモダンだという点がポイント。かつ、誰しもが知っているバレエ舞踊を、映画内で採用したかった、というのも、その理由として挙げられるね」

 

ーー緻密な構成を踏まえ、 監督のアクション・ムービーで培った軽快なストーリー展開は、観る者へアニメであることを忘れさせるのみならず、感情移入させる作風となっていて。凡百のアニメーション映画を蹴散らす、マスターピースへと仕上がっていますね。

 

エリック「バジェットが少ない中、僕たちが駆使したのはクリエイティヴ・インスピレーション。それをふんだんにストーリーへ挿入することにより、たとえディズニーやピクサーのスタジオ制作費よりも遥かにわずかなバジェットであったとしても、僕たちは美しい映画を制作することは可能だし、太刀打ちできるんだって。それを今作で証明したと思っているよ」

 

ーー時に、私は10歳年上の兄の影響で、映画『ロッキー』からプロのスピリットや生き様を学んだタイプなのだけど。

 

エリック「僕も『ロッキー』の大ファン!」

 

ーー私にとって『Ballerina』は、まさに子供版『ロッキー』‼︎  うちの息子たちは『Ballerina』のフランス版DVDを購入して以来、日に2度も鑑賞しながら、くるくるバレエのターンを嬉々として披露しているし、休日に行きたい場所を尋ねると迷わず『Ballerina』の舞台"パリ・オペラ座"と答えるんです。その意味では、『ロッキー』のようなプロのスピリット、はたまたダンスの楽しさを学べる、子供向けの映画『Ballerina』と出逢えたことが幸せで‼︎

 

エリック「まさにその通り! 実際、『ロッキー』のように生き様を学べる子供向けのフィルムを制作してみたい、という目的が僕にはあった。そういった観点では『Karate Kid(邦題 : ベスト・キッド)』もインスピレーションのひとつだし、特に僕がインスパイアーされたのはジョン・ヒューズが脚本、監督、プロデュースを手掛けた映画。彼は若くして亡くなってしまったけれど、偉大な天才だった。中でも『フェリスはある朝突然に』『大災難P.T.A.』は、僕の永遠のフェイヴァリット・ムービーだね」

 

ーー『フェリスはある朝突然に』をお好きな点からも分かるように、しなやかなバレエがテーマながら、全編を貫くのは監督自身の熱いスピリットを感じさせる、"ロックンロール魂"!!

 

エリック「はは! ロック・ミュージックの大ファンなんだ!」

 

ーー随所に観客のハートに火をつけるロックなセリフやアティテュードが散りばめられているけれど、一番の見どころは?

 

エリック「見どころは何と言っても、ラスト。メラントゥ(世界的に有名なバレエ教師)が、フェリシーとカミーユ(フェリシーのライバル)に、"なぜダンスを踊っているんだ?"と、尋ねるシーン。僕らの人生において、何かに対して抱くモチベーションというのは、己のハートから来るものに違いない。決して、誰かのすすめや指示に従ってはじめるものではなく、ね。その判断基準は、自分自身が燃えるような情熱を感じるか否か。さもなければ、パッションがない証拠、他ならない。それを『Ballerina』で伝えたかったんだよね。

 

ーーそんなパッションあふれる監督が、この映画で最も感じとって欲しいメッセージとは?

 

エリック「古今東西、世界中の多くの人々の中で語られてきた、シンプルながら非常に重要なメッセージ。

"夢を諦めないで! 年齢やどんな困難もなんのその、他の誰かが何と言おうと、常に立ち向かい、挑み続けるんだ。君たちが信じている運命のために‼︎"

 

 

column by Mihoko Kaneda

長年に渡り日本でジャーナリストとして活動してきたが、2006年に渡米。

2011年より拠点をパリへ本格的に移し、2児を出産。

2016年よりフランスのTVドラマや映画にも出演。

2017年に公開予定の代表作は、ローマン・ポランスキー監督"D'APRÈS UNE HISTOIRE VRAIE"

ヴァネッサ・パラディと共演を果たした映画"BIG BANG"

そして映画"イヴ・サンローラン"で一躍スターダムにのし上がったピエール・ニネの最新映画"SAUVER OU PÉRIR"等が挙げられる。