2016年

11月

10日

-036.人間塔 / Castellers

みなさんこんにちは。

一時間時間がずれて冬時間が始まり、全聖人節の日を無事終えて、秋も深まり冬支度を始めつつあるこの頃ですが、みなさんいかがお過ごしでしょうか。今回久しぶりの投稿は、最近我が家で参加をはじめたカタルーニャの伝統行事、人間塔Castellersについてお話したいと思います。

人間塔は、読んで字のごとく、人間の上に人間が乗っかって、高い塔を作るわけですが、元々は農夫などが中心になってフィエスタの時などに踊る民族舞踊の中のワンシーン的に数段の塔を作るところかが始まって(こちらの記事に出てくる舞踊にもたしかに3段くらいの塔が出てきます)、それがどんどんエスカレートして人間塔の部分だけが独立した活動になり、様々なグループが出来て現在に至るようなのですが、その歴史はなんと200年も遡ることが出来るのだそう。ここ数年、カタルーニャ南部タラゴナ(人間塔の発祥の地でもあります)の旧闘牛場で二年に一度行われるコンペティションのメディアへの露出度が急激に高まって世界的に注目されるようになったこともあり(とはいえ大会自体は26回目、初の大会はなんと80年以上も前、1932年に行われたのだそう)、新しくて古い、興味深い課外活動になっています。

私達にとってこの人間塔は、以前バルセロナに在住していたみずきちゃん、なつみちゃんとその家族がサンツの人間塔チームで活躍していたのを町のあちこちで見せてもらっていたことや、学校にとある人間塔のチームが来て初歩的な動きを教えてくれたこと、そして義母の住むマタロのフィエスタで地元の人間塔を身近に見られたこと、などがありますが、思い返すと、生まれて初めてテレビではなく生で見た人間塔は、かれこれ15年くらいも前でしょうか、Vilafrancaという、そのタラゴナの人間塔の前大会優勝チームの塔を、その地元のお祭りのメインイベントとして見たものでした。なんの仕掛けも装備もないただの生身の人間が積み重なってこんなに高い塔を作れるということ、その真剣さや、皆が登っている間の観衆の驚くほどの静けさや、いろいろなことに圧倒されて、自然に涙が出てしまったのを思い出します。

©Jo, Claudi
©Jo, Claudi

実は数年前、まだ長男の温が小さかった頃(5,6歳でしょうか)、参加してみようかと家から一番近くの練習場へ行ってみたのですが、そのあまりの真剣さ、そしてちょっと厳しそうな感じに圧倒されてしまい、その当時は「まだ無理かなあ」と参加を見送っていましたが、次男のイウも「試してみたい」と言い出したので、インターネットでいろいろなチームを比較検討し(バルセロナに8つ、全国的には79ものチームがあるそうです)、通える距離にあるチームの中で最も「初心者を歓迎してくれそうで雰囲気が良さそうなチーム」を探して現在のColla Castellera Jove de Barcelonaの扉を叩いてみることにしたのでした。6年の歴史「しか」ない新米チームですが、意外と遠くから通っている人も居て驚きます。

人間塔について知りはじめて、一番最初に気づく魅力の一つは、まさに老いも若きも男も女も、背の高い人も低い人も太っている人もやせている人も、皆が参加できる活動であるということ。沢山の人がギュウギュウ詰めに集まって塔の基礎を作り、大柄な男の人が下の階に、それからだんだん細く小柄な人を上の階に載せ、最後に小さな細い子供(軽いことが重要なので女の子であることがほとんど)が高い高いてっぺんの上に上り詰めて手を掲げるという構造になっています。最初は一番上で手を上げるアンシャネータEnxanetaの小ささと勇敢さに目を奪われますが、下で支えている男の人達が歯を食いしばっている様子や、一番下で腕を重ねて基礎を固めている人たちも、皆ほんとうに惚れ惚れするようないい顔をしています。そしてそうやって世代を越えたいろいろな人達が100人くらいの単位で集まって真剣に一緒に何かをすることで、不思議な一体感が生まれて、まるで大きな家族に属しているような感じが味わえるのも、他では体験できないことの一つです。

とはいえ具体的にそこに「自分とその家族」を当てはめてみると、なかなか大変なことが分かります。お父さんのダビは一番下でピニャPinyaと呼ばれる人間塔の「基礎」を作る一員になるので当然荷重に耐える基礎的な力をつけるところから始めなければいけませんし、イウは小さくて軽いので高いところに登らなければなりません(手を上げるアンシャネータのすぐ下で一番小さな子が担当するアチェカドールAixecadorを練習しています)。温は今のところ、一番上に登るには重すぎ、上から3段目のドソスDososに立つには少し身長が足りないということで、暫くの間は次のドソスに向けて練習を重ねることに。ふと気がつくと、小さい子の9割は実は女の子。基礎のピニャは7割が男の人かもしれません。私は身体の大きさ的には上から3段目か4段目に登るべきなのでしょうけれど、高いところは正直なところ怖いので、最初はピニャの一員で頑張ってみましたが、ふと、「そうだ、笛なら吹けるかも」と思いたって、現在グラリャGrallaと呼ばれる特別な笛を練習しています(ファゴットに使われるものとよく似た特別な吹口があり、音を出すのがとてもとても難しいのですが)。そして、塔の構成要素にならなくとも、たくさんの人が集まる場所ですので、子どもたちのお世話係、オリジナル・グッズを作成する係、荷物の管理係など皆がそれぞれに自分の役割を見つけて活躍しています。背中を痛めて以来塔を支える役を退いた男性が、現在専属のカメラマンだったりもします。

毎週火曜日と金曜日の午後に練習が行われるのですが、学校に通う子どもたちも、フルタイムで働く大人たちも皆一緒に一つの塔を作るので、練習する時間を合わせるのがすでに大変です。子どもたちは夜7時から8時に子供だけで練習、8時から9時頃まで皆で練習、そのあと大人だけ残ってさらに練習、というスケジュールですが、多くの人がまさに「家族連れ」で来ているので、子供だけで行ったり帰ったりすることもままならず、自然と多くの時間を練習場で過ごすようになります。夕食持参で、別室で待ち時間に宿題をしている子供が居たりするのは、とてもアットホームです。温は皆に折り紙を教えてあげたりしてなかなか人気者のようです。

私達のCollaは小さなチームなのですが、登録している人が現在150人ほどで、練習には80人から100人くらいの人が来ているように見えますが、大事な大会やお祭りの前には、練習時にもたくさんの人が来るので練習場はすぐに人でいっぱいになります。こんなに沢山の人が来ていても、なんと「人が足りない」のだそうですが、それは例えば塔の階数をひとつ上げるためには、何十人もの人を増やさなければならないからという技術的な理由があります。少し考えてみると分かるのですが、階高を一段上げるには、一番上にもう一人乗せることはできなくて(小さな子どもたちの上に荷重をかけることはできません)、下を底上げするしかないのです。大会で一番「強い」チームが作る10段の塔などは、基礎だけで何百人もの人が必要で、それは他のチーム同士で手伝い合いながら作ることも出来るのですが、もちろん毎日の「練習」の時にもその基礎の人数は必要なのです。そんな理由から、強いチームでは大会の前に「ご近所さん、友達、同僚、誰でもいいから連れてきてくれたら抽選で生ハム一本プレゼント」などいろいろな工夫を凝らして人数を集めているのだそう。

この人間塔を支える精神、について有名な4つの要素があって、それは、「力、バランス、勇気、そして皆が一つになる気持ち(Força, Equilibri, Valor i Seny)」というものだそうです。そのどれが欠けてもいい塔は出来ないのですが、特にはじめてみてなるほどと思うのは、「無理をしない勇気」というのがとても大事だということ。大会などをテレビで見ていると、点数を競ったり、成功と失敗があったりするのでオリンピックにも似ているし、厳しい練習が必要なスポーツのように感じられてしまう面もあるのですが、人間塔はスポーツ、ではないようです。安全第一はもちろん、正確に出来るよう、怪我をしないよう、何度も何度も練習を繰り返すこと、皆のメンタル面のケアなどを徹底して、「勝つことを目標に」しないようにこころがけつつ、何よりも自分たちのために、皆の士気を高めるために少しづつ難しい塔に挑戦していく、と考えたほうがいいように思っています。

まだ私達家族は新米なのですが、毎回練習やフィエスタでのプレゼンテーションの度に新しい発見があり、何せ沢山の仲間たちがいるので、皆と少しずつ話をしていくことも楽しみの一つです。日本語を勉強中というカタルーニャ人のお母さんから、ひらがなのメッセージを受け取ったりもしました。

今のところ一番の驚きは、二人の子どもたちがまさに人間塔漬けになっていること。家でも自主トレに励み、レゴは每日フィギュアで難しい塔を作り、ぬいぐるみでも、学校で描く絵も、見たいYoutubeのビデオも、Castellersのものばかり。学校ではなかなか「女の子の友達」が出来ない年頃になった二人も、チームの女の子たちとはみんな本当に仲良しで、特に少し年上、あるいは年下の子どもたちとの交流が新鮮で楽しいようです。

冬は寒いので今月11月末にシーズンを終えるまで、練習が続きます。もうすこし上手になったら、また皆さんにお知らせしたいと思います。

ではまた、次回まで。

Column by Tomoko SAKAMOTO
カタルーニャ人でグラフィック・デザイナーのダビ・パパと一緒に
ブック・デザインとその周辺を手がけるSPREAD(www.spread.eu.com)
というスタジオを主催する編集者・ママのコラムです
「遊んであげない。一緒に遊ぼう!」をモットーに二人の男の子を育てています