-033.おじいちゃんってどんな人?

穏やかな地中海気候のバルセロナもだいぶ寒くなり、すっかりクリスマスの雰囲気が高まってきましたが、みなさま いかがお過ごしでしょうか。
今日はとても我が家の個人的な出来事ではあるのですが、会ったことのない家族に思いを馳せる、ということについ て書いてみたいと思います。

今からちょうど20年前、うちの子供たちが生まれるずっとずーっと前に、夫のお父さん(つまり子供たちのおじい ちゃん)が、癌で他界しました。眉毛や鼻のあたりが夫に本当にそっくりで、とても社交的で明るい人だったそうです。バルセロナの街で小さ な印刷所を経営していたのですが、不景気で経営が難しくなって「もう、この仕事は辞めたほうが良さそうだ」と事業をたたみ、妻、当時14 歳と9歳だった夫とその弟を連れて家族4人でモリーナというスキー場で有名な山のふもとに向かい、そこで心機一転、家と店のスペースを借 りて飲食店経営を始め、定年退職するまで冬はスキー客に、夏は村の学校給食を作りながら厨房で頑張っていたそうです。真面目で仕事熱心 で、どんなキツイ仕事も文句ひとつ言わずにきちんと仕上げる代わりに、週末や定期的な休暇を何よりも楽しみにし、いつもいつも「次の休暇 は何をしよう」と家族で綿密に計画をたてるような、そんな人だったそうです。オンとオフのメリハリがはっきりした人だったんですね。私 も、そしてもちろん子供たちも彼を知らないので、いつも夫や義母から写真を見ながら話を聞くだけなのですが、いつの間にかなんとなく、顔 や性格をちゃんと想像できる、よく読む絵本の主人公みたいな(笑)存在として家族に根付いている人でもあります。



そして、毎年11月の終わりに、そのおじいちゃんについてまたいろいろなことを考えさせられる、素敵な出来事が あります。バルセロナのクロットという地区にある、規模は小さくはないけれどどちらかというと清楚で観光客などは入らなそうな、地元の 人々が通う教会で、サルダーナと呼ばれるカタルーニャの民族舞踊のショーが毎年行われるのですが、その会にいつも、なんとそのおじいちゃ んの名前が冠されているのです。ジョアン・ロレンテという名前のそのおじいちゃんは、週末の楽しみのひとつとしてサルダーナを踊っていた のですが、のめり込んで本格的に傾倒するようになり、ついには新しいサルダーナ(民族舞踊なのですが、そのスタイルを応用、踏襲して今も どんどん新しい踊りや歌を作っているのだそうです)の振り付けまで手がけるようにもなり、仲間たちを率いて大会に出場したり、スイスやマ ダガスカル(!)にまで招待されて踊りに行ったり、趣味が講じて道を極めるような活動をしていたそうなのです。そして今から35年前、み んなが集まって練習していた場所の一番近くにあった教会の牧師さんにジョアンが掛けあって、一年に一度地元の人達にも自分達の踊りを見て もらう機会を作り、それ以来、今では何百人もの人が楽しみに集まる素敵な催し物になっているのだそう。サルダーナのテーマは、ほとんどが フォークロアで、収穫を祝ったり社交の中で素敵なパートナーを探したり、といったものなのですが、キリストの受難など宗教的なものもいく つかあるので、当時は宗教活動の一部としても受け入れてくれたのだそうです。けれどもその後牧師さんが変わったりする度に「娯楽のための ステージを教会の中でやるなんて!」と一悶着あるのを周りの人たちが頑張って引き継いでいるのだそうです。一度新しい牧師さんがとても反 対して教会の空間を使えなくなった時は、沢山の人が署名運動をしてくれて、結局教会前の屋外広場にステージと椅子を設置して(寒かっ た!!)、その出来事がテレビや新聞などでも報道され、見直しのための長い議論と交渉が再開され、再び、また教会の中で出来るようになっ たという経緯もあります。そんな歴史も地元のみんなが知っているので、大切に思ってくれる人たちが、子供や孫たちを連れて毎年見てくれる のです。とはいえジョアンにとってはサルダーナはあくまでも魂をかけた趣味(笑)だったので、どんなに活動が盛り上がっても金銭のやりと りなどは一切なく、そのショーも、今でも寄付と仲間同士の協力で設営し、完全入場無料ということになっています。


子供たちは赤ちゃんの頃から毎年この会に行っていますが(温が初めて来たのはまだ生後一ヶ月の時でした)、夜遅 くに寒い教会で2時間のダンスを見るのがなかなか辛く、最後はいっつも寝てしまいます。とはいえ沢山の人が来て立ち見も出るような会場な のに、「故ジョアン・ロレンテ家族特等席」を用意していただいているので(笑)私のような血の繋がっていない家族にはなんだかとってもあ りがたく、ジョアンおじいちゃんを知っている友人たちが私達の席を訪ねてきてくれては「あのジョアンにこんな孫ができるとはなあ」と喜ば れたりするのもなんだかくすぐったい嬉しさなのでした。今踊っている人たちのほとんどは20代の若い人たちで、民族舞踊というと何となく 若い人たちに倦厭されそうな気がしますが、ぜんぜんそんな事にはなっていないようで、カスタリェーと呼ばれる人間タワーの人気にはまだ及 びませんが、ちゃんと伝統が引き継がれている安心感があります。夫は小さいころ無理やり白いタイツを履かされて踊らされたのが半分トラウ マのようになってうちの子供たちに親の意志でやらせたりはしたくないようなのですが、もうちょっと大きくなったら、自分たちの意思で、 ちょっと踊ってみたいとか言い出してくれないかな(笑)と私は思っています。来年も、また来ようね。

ではみなさま、素敵なクリスマスをお過ごしください。


Column by Tomoko SAKAMOTO
カタルーニャ人でグラフィック・デザイナーのダビ・パパと一緒に
ブック・デザインとその周辺を手がけるSPREAD(www.spread.eu.com)
というスタジオを主催する編集者・ママのコラムです
「遊んであげない。一緒に遊ぼう!」をモットーに二人の男の子を育てています