-003.Palačinke from Bosnia and Herzegovina

おやつプロファイリングその3 「パラチンケ from ボスニア&ヘルツェゴビナ」


梅雨空のすっきりしないお天気が続く、ある夜のこと。

お風呂から上がってリビングにいくと、テレビの前で8歳児が号泣している。ど、どうしたんだ??
「な、なに??どーしたの?」
「お、おがぁざん…おじむ、おじむが…」
涙と鼻水で最早何を言ってるか分からない8歳児。

テレビにはサッカー前日本代表監督だったイビチャ・オシムが。
どうやらワールドカップ初出場を果たしたボスニア・ヘルツェゴビナのドキュメンタリー番組を観ていたらしい。
旧ユーゴスラビア時代に5つの民族、6つの国をまとめて代表監督を務めたオシム。
1990年ワールドカップイタリア大会で、エースのストイコビッチがPKを外して敗れたエピソードは、8歳児の胸に深く突き刺さったようだ。この後、オシムは代表を辞任し祖国を離れ、内戦は激化しユーゴスラビアは崩壊することになる。
PKを蹴るのに、失敗したら民族間の紛争を引き起こすかもしれないという恐怖など、日本人にはあり得ないことだ。

しかし2009年以降、常に3民族の代表が乱立するボスニアサッカー協会をひとつにまとめ、FIFAからワールドカップ予選出場を
認められたのは、オシムの尽力によるものだとボスニアのサポーター達は知っている。

現チームの司令塔であるミシモビッチはセルビア人、エースストライカーのジェコはムスリム人、そしてオシム自身はドイツ系のクロアチア人である。

宗教や過去の遺恨を乗り越え、ボスニア・ヘルツェゴビナは、サッカーによって一つとなり、晴れてワールドカップ初出場を決めた。欧州予選でリトアニアを下し出場が決まった瞬間、オシムの目には涙が溢れた。

「…ぼく、サッカーが好きだ」
番組が終わって、鼻をかみながら8歳児。
「そうだね。サッカーのおかげで、同じ国の中で殺し合いをしていた人たちが、ひとつになれたんだもんね」
「でもさ、ムスリム人ってどこにいるの?セルビア人って何食べてるの?」
さすが!やはりそこか。でも重要だよね。ということで、今回はオシムさんに敬意を表してボスニア・ヘルツェゴビナ
のおやつを研究してみよう。

現在のボスニア・ヘルツェゴビナは大きく3つの民族が共存している。
ムスリム人(イスラム教)
セルビア人(セルビア正教)
クロアチア人(カトリック)
かつてオスマントルコ支配下だった国に共通することだが、乳製品、肉をメインとしたムスリム食が多くみられる。
ただし、オシムさんは祖父母がドイツ系でご本人も「シュワーボ」(ドイツ野郎の意)の愛称を持つことから、おそらく食生活はムスリムよりもドイツ→中欧系だったのでは?と推測される。

となると、この辺りで食べられるおやつの定番といえば…。
所長「パラチンケかなぁ」
助手「ぱらちんけ?何それ?」
ライブラリという名の物置小屋で、3歳くらいまで夢中で遊んでいたブロックを発見して小躍りしていた助手、目を輝かせて反応する。

ちんけー???意味わかんないー何語なの??と腹を抱えて大笑い。確かに語感は笑えるよね。
所長「語源はラテン語のプラケンタ、平たいケーキのことね。クレープ状のパンケーキにジャムとかチョコソースを挟んだやつ」
助手「うまそうだなぁ~ちんけー!」
所長「…ちんけ、ちんけ言うな。よし、それなら材料もあるし早速ラボで作ってみましょう」
オシムさんが小さい頃に食べていたかどうか不明だが、オーストリアなど中欧諸国では定番の家庭おやつパラチンケ。

作り方はこんな感じです。

材料

(直径20cm・6枚分)
1.卵 1個
2.牛乳 100ml
3.ソーダ水 200ml
4.薄力粉 150g
5.塩 ひとつまみ
6.油 少々

フィリング用
ジャム、チョコレートソース、シナモンシュガーなどお好きなものを。

作り方
1: 卵をボオルに割りいれ、泡立て器でほぐす。牛乳とソーダ水を加える。
2: 小麦粉と塩をくわえ混ぜる。
3: 室温で30分程度生地を休ませる。この間にフィリングを用意しましょう。
4: 中火に熱したフライパンに油をなじませ、おたま1杯分の生地を広げ入れる。
5: 表面が乾き、生地の端が浮き上がってきたらヘラで裏返す。裏面は10秒程度で焼き色はつけない。
6: 荒熱が取れたらお好みのフィリングを乗せて、くるくると巻いて出来上がり。


・いわゆる日本で言うところのクレープですね。
助手「なんでソーダ水入れるの?ぼく飲めないよ」(8歳児はまだ炭酸ヴァージン)
所長「ソーダ水で作ると、生地がもちもちっとなるんだって。空気を沢山含むからかなぁ」
助手「食べたらシュワシュワする?」
所長「シュワシュワはしないよ。もちもちね。あ、これ!泡立てるんじゃないよー」

・30分くらい生地を休ませている間、フィリングの用意をします。
助手「ぼく、チョコソースとブルーベリージャム、それとアーモンドも入れたい」
所長「アーモンドは刻まなきゃね。チョコとジャム一緒はどうかなぁ~。別々にすれば?」
助手「じゃ3種類別々で3個食べる。あ、チーズも美味しそう。やっぱ4個だ」
所長「そんなに欲張ったらお腹痛くなるよ。でもチーズ確かに美味しそうだなぁ」


・薄く伸ばして数分。生地のふちが少し浮いたらへらを差し込み裏返します。
助手「おちゃー!!我はジャグラーひっくり返しの技、でぇぇぇーん!」
所長「どうしてこう無駄な動きが多いかねぇ…まぁすべての行動の90%近くが無駄な動きなんだけどね」

・少し冷まして、お好みのフィリングを乗せたらくるくる巻いて、完成です。
助手「塗って~巻いて~♪なんか手巻きずしみたいだね」
所長「オーストリアやハンガリーでは、こうやって並べて上からチョコや粉砂糖かけてお皿に盛り付けられてるよ」
助手「巻いたらすぐ食べたいからぼくはいいや」
所長「…まさに手巻きずし状態だね、君は」

素朴な家庭おやつ。チョコレートソース、ヘーゼルナッツクリームや手作りジャムなどを思い思いに巻いて、パラチンケ・パーティも楽しそう。
個人的にはカッテージチーズとカシスジャムの組み合わせが絶妙。オシムさんの素晴らしい功績を賞賛しつつ、ボスニア・ヘルツェゴビナ
の平和を祈る午後のひと時でした。

プロファイリングNo.3 パラチンケ
手作り満足度 ★★★★☆
材料入手難易度 ★☆☆☆☆
味 ★★★★☆
マリアージュ フレーバーティー フレーバーコーヒー

Column by  ムラカミユカコ/Yukako MURAKAMI
世界おやつ文化研究所・所長
おやつ文化及び午後3時における人間の行動心理を探究する1児の母