-019.ル・コルビジェが愛した海 (その1)


4月にミラノサローネ視察に行った際に南仏・コートダジュールのカップマルタンを訪れたので、今回は、その様子をスケッチします。

 

カップマルタンは、あのル・コルビジェが中晩年、愛妻イヴォンヌ夫人と毎年のバカンスを過ごした、愛してやまない海辺の街。そこには夫人の誕生日にプレゼントした小さな丸太小屋(キャバノン)が建てられている。長年、楽しい日々をここで過ごし、晩年、夫人に先立たれた後も思い出に浸るかのようにここを訪れたそうだ。そして77歳の夏、この海を泳いでいる最中に帰らぬ人になった。小高い丘にはル・コルビジェの最後の作品ともいえる二人のお墓が海を眺めるように佇んでいる。カップマルタンの海には、そんな巨匠の切ないストーリーが沈んでいる。

 

ル・コルビジェが何を感じ、どんな気持ちでこの海辺の街を訪れ続けたのか? ロンシャン礼拝堂、ラトゥーレット礼拝堂、上野の国立西洋美術館、チャンティガール都市計画など、丁度、晩年の大きなプロジェクトを手がけていた時期、ル・コルビジェは毎年のバカンスにここを訪れている。この海辺で、様々なプロジェクトの発想が生まれたとも言われる。僕は、その地に立って、ル・コルビジェが眺めていた景色をこの目で見て、その海の音、香り、空気を体験してみたいと願っていた。そして、今回、そこを訪れる機会を得たのだ。

 

ミラノからカップマルタンへは電車で4時間半ほど。朝9時18分発の特急に乗ってミラノ中央駅から地中海に面したヴェンティミーリアに向かう。

 

そして、ヴェンティミーリアからコートダジュールのリゾート地をゆっくりと走る、江ノ電のような電車に乗り換え、30分ほどでロックブリュヌ・カップマルタン駅に到着した。

 

駅の近くの海岸沿いには「ル・コルビジェ・ロード」という道があり、ジョギングをする人がちらほら。


そして、来てみてわかったのがホテルがあるビレッジ地区は山の上に広がる城下街。つまり、向かうべき場所は遥か彼方見上げる高い山の上、道はどう見ても登山道。仕方なくホテルに電話をして事情を話し、迎えに来てほしい、プリーズ!と頼みこみ、何とか駅まで車で迎えに来てもらう。ビレッジ地区は、かつては要塞として機能していたとのことで、海岸からビレッジまでは標高約2~300m程もあるらしい。


ホテルのオーナーKARINEの赤いプジョーに乗って到着したホテルはコートダジュールらしいリラックスした部屋。ホテルとは名ばかりでビレッジの住居の一室を改装したものだが、とてもチャーミングな部屋。一人ではもったいない。

 

このあたりは、子どもたちも多く見かけられ、駅周辺とは違って活気がある。


 

夕陽の時刻に併せてル・コルビジェ夫妻のお墓へ向かう。場所はビレッジの中心から山を登って5分くらいのところ。建築書籍などで紹介される写真では、単独で丘に佇んでいるのがイメージされるが、意外にも共同墓地の一画に小さくカラフルなお墓は佇んでいた。

 

お墓の前に立つ。

太陽を思わせる黄色と赤のパネルにル・コルビジェ、海を思わせる青のパネルには妻イヴォンヌの名前が描かれている。荒っぽい手書きの文字。一見、かわいらしいデザインなのに凄い存在感を持っている。思わず合掌する。

 

そして目を開ける。眼下にはコートダジュールの海の色が広がり、明るいブルーで空に混ざりあう。右の方にはモナコの街並みが描かれ、霞がかかる。遠くからは、微かにしか波の音が聞こえてこない。とても静かだ。海と空と太陽と緑の生命力が強く感じられる。切ないほど心地よい場所だ。ここに眠る2人のことを想像した瞬間、何か全身にゾクゾクするものが走るのを感じる。そして、僕は何かを告白するかのように未来のことを祈った。

 

その日の夜、ビレッジの展望台からカップマルタンの夜景を眺めた。夜の海には、さらに神々しさが広がっていた。月明かりが静かな海を照らし、そこに沈んだ大切なものを見守っているようだった。

 

ル・コルビジェの著作のなかで「直角の詩という詩画集がある。環境、精神、肉体、融合、性格、贈物、道具という7つのテーマで描かれた哲学的なこの本には、背反する2つのものが出会って生まれる生命や愛についてのストーリーが描かれている。太陽と海から誕生する生命が描かれて始まるこのストーリーの終わりには、手で描かれた「直角」が登場し、水平と垂直の相反する2つの線が交わりによってできるもの=建築というイメージで括られている。つまり、建築(=直角)を生命や愛の誕生を表現する「道具」として描いているのだ。

 

そういえば、夕方に見たル・コルビジェのお墓には、太陽(ル・コルビジェ)と海(イヴォンヌ)が描かれ、直角で構成された立方体のコンクリートのなかに収まっていた。一見、理屈をこねているだけに思われるかもしれないが、僕にはル・コルビジェのメッセージが確かに伝わってきた実感がある。こうして、カップマルタンの1日目が終わった。

(次回へと続く)

宿泊したホテル:

[Chambre d'Hôtes Village de Roquebrune-Cap-Martin]

Adress:18 Rue de la Fontaine, 06190 Roquebrune Cup Martin

※お城やル・コルビジェ夫妻の墓まで徒歩5分くらいで行けます。

 

column by 梶谷拓生/Takusei
 KAJITANI
エクスペリエンスデザインを仕事にしてます

技術やデザインやヒトを融合して新しい体験やサービスを創りだす仕事です

サッカーをこよなく愛し、今も地元チームのミッドフィールダーとして活動中

サッカー好きな長男、音楽好きの長女を持つパパでもあります

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コメント: 2
  • #1

    Monet Beene (土曜日, 21 1月 2017 23:22)


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  • #2

    Landon Drewes (日曜日, 22 1月 2017 16:22)


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