
おやつプロファイリングその2 「アロコ from コートジボアール」
天気の良い昼下がり。書き物仕事を終え緑茶を淹れてほっこり一息…。
「ただいまーっっっ!」ドタドタと8歳児様、小学校からのお帰りなり。
はいはい、今日も頑張って勉学と運動に勤しんで来たかい?
「おかあさん、おかあさん、おかあさん!」
「なぁに?おかあさん大売り出しじゃないんだから、そんなに何度も呼ばないで」
「あのさ、コートジボアールってどこ??」
ソファに向かってランドセルをハンマー投げしながら、かなり心配顔で質問してくる8歳児。今日はランドセルの蓋がちゃんと閉まっていたらしく、中身が全部床にぶちまかれることもなく一安心。
「コートジボアール??うーん、アフリカ大陸の…多分海岸沿いだと思うけど…なんで?」
8歳児は棚の上の地球儀を平手打ちするようにバシバシ、ぶんぶん廻しながら
「ワールドカップの最初の戦いが、コートジボアールなんだ」
「…あぁ、サッカーね」
8歳児は小学校のサッカー部に所属していて、将来の夢は宇宙飛行士とサッカー選手の兼業なんだそうな。
「でさ、絶対に勝たなきゃいけないんだけど、本田選手が楽しく出来ないって」
…翻訳時間約30秒。おそらく彼は新聞かなにかで、本田選手が「コートジボアール戦は楽観視出来ない」と発言していたのを見たのでしょう。読める漢字だけ拾って解釈するから時として翻訳作業が必要なことも。
「それで?コートジボアールの場所が知りたいの?」
「だって!敵に勝つにはまず敵を知れって、諸葛孔明が言ってたからっ!!」
…うーむ、そう来たか。最近図書館で「マンガ三国志」という本を借りてきて、むさぼるよう読んでいた8歳児。お母さんも知らない武将の名前やら「何とかの戦い」がどうのこうのと言っていたが、諸葛孔明ならお母さんもギリギリ知ってるわ。
「だからさぁー、あ!あったコートジボアール!こんな所かぁー」
どれどれ。お母さんにも見せて。おぉ。これか。コートジボアールは西アフリカ、ガーナとマリ、リベリア等と隣接。Cote d'Ivoireとはフランス語で「象牙海岸」のことで、日本でも昔は「象牙海岸共和国」と呼ばれていたそうな。
「アフリカは暑いから、選手は皆体力があるんだって。コーチが言ってた。」
地球儀を見つめながら真剣に勝つための策を練ろうとするチビ孔明。よっしゃ。おかぁちゃんも付き合ってやろう。
「戦う相手の体力が知りたいなら、食べ物も大切じゃない?じゃ、コートジボアールの人たちがどんなおやつを食べているか、調べてみよう。なんてったってお母さんは世界おやつ文化研究所の所長だから」
8歳児、みるみる目を輝かせて「うん!僕は助手だしね!!」ということで、本田選手が楽しくプレー出来るように敵のおやつ調査を開始!
まずはコートジボアールで一般的に食べられているおやつを調べることに。ライブラリーで検索してみると「Allocoアロコ」という文字が頻繁に出てくる。プランテインと呼ばれる青いバナナをパーム油で揚げて塩をまぶしたもので、おやつとして路上屋台で売られていたり、食事のメインに付け添えで出たりするみたい。そしてどうやら、コートジボアールはアフリカ諸国の中でも食事が美味しい国として有名らしい。海外青年協力隊でコートジボアールに赴任した人が、かなり太って帰ってくるなんてエピソードも。フランス領だったことからも、充実した食生活が営まれている模様。やはり強敵の気配がひしひしと。
「おかあさん、プランテインってどんなバナナなの?」
「…所長ですよ。プランテインって青いバナナで、君が大好きな黄色いバナナとは違って甘くないのよ」
南米やアフリカ諸国ではこのプランテインが主食の一部として色々な料理に利用されている。生ではなく焼いたり揚げたりと調理されるんだけど、アロコのようにおやつとしても食べられているところを見ると、日本でいうところの「じゃがいも・さつまいも」のような位置づけなのかな。であればアロコはポテトチップスかフライドポテト、あるいは焼き芋的な存在なのかもしれませんね。なるほど、ではではキッチンラボで早速試作に…と行きたいところですが、このプランテインというバナナ、需要のない日本ではほとんど市場に出回ることがありません。
「さてと…プランテインをどうやって入手するかなぁ」
誰かアフリカ通の知り合いいたかなぁ…あ、ヤマサキに連絡してみよう。
ヤマサキとは私の昔からの知り合いで、スポーツ系のライターで世界中をほっつき歩いている住所不定の30代男子。本人いわく戦国時代のご先祖が足軽という農民兼兵隊だったそうで、フットワークも尻も軽い、がセールスポイント。仕事は選ばないし無駄に顔が広いので、調査で行き詰った時はとにかくヤマサキに聞いてみよう、となるわけです。文明の利器skypeのおかげで、この吟遊詩人のような男にもすぐに連絡が取れます。ITってすごいわ。数度の呼び出し音の後で、「あろー。間に合ってまーす」と寝ぼけ声が。
「…間に合ってるってまだ何も言ってないよ。おつかれー。寝てた?今どこにいるの?」
「おつかれっす。今はソチっすよ」
あー。オリンピックとパラリンピックか。完全に寝ているところを起こしてしまったみたい。
「起こしてごめんねー。あのさ、東京で青いバナナ売ってる店知らない?プランテインってやつ」しばし沈黙。
「うー。五反田かなぁ。日系ボリビア人の商社があって、小売りもやってたはずっす」
さすがヤマサキ。早速うろ覚えながらも店の名前と場所まで教えてくれた! メモを取っていると後ろから8歳児が。
「ヤマちゃーん」
「お、8歳児。元気か??学校楽しいか?彼女は出来たか?」
「カノジョってなに?」
「彼女とはオネェチャンのことだ。オネェチャンとは全ての男にとっての生きがいだ。8歳児も早く大人になって世界を旅するんだぞ。ロシアのオネェチャンは綺麗だぞー!…ブチッ」通話終了。
なんで切っちゃったのーと不満げな8歳児を無視しつつ、さぁプランテインを入手しに出かけましょう。
ここから、実際にプランテインを手に入れるまでの様々なエピソードは、それだけで1回分のコラムになるくらいの充実ぶり。
登場人物は多民族でみんな片言の日本語だし、バナナ買いに行ったのにチャランゴ弾かされるし…五反田から南麻布、御徒町と
プランタインを求めて「彷徨えるオランダ人」と化した私。どうやら時期が悪いらしく、いつもは取り扱っているお店でもいつ入荷になるかまったく分らないとのこと。最後は横浜の港でエクアドルから着く船を待つしかないのか?と思いきや、意外な所に伏兵がいました。うちの近所で品揃えには定評のある八百屋のおじさんから携帯に電話が。築地に仕入れに行ったらプランタインがあったので、ひと房仕入れといたから取りにおいでー、だって!すごい!さすがこの道何十年で毎朝3時起きで築地に行ってるだけのことはあるわー。困った時にはプロに任せるのが一番ね。相談しておいて良かった!
と言う訳でようやく材料が揃い、キッチンラボで試作開始です。



材料
1.プランタインバナナ 数本
2.揚げ油(パーム油) 適量
3.塩 少々
作り方
1:プランタインの皮をむき、適当な大きさに刻む
2:揚げ湯を鍋で熱し、1をそのまま投入。180度で数分揚げる
3:油切りをして、塩をまぶす
・材料入手の困難さから考えると、腰が抜けそうなくらい簡単な作業工程です。


・今回入手出来たのはエクアドル産のプランタイン。実は小さめで、分厚い皮は包丁じゃないと剥けません。
まだ若いようで刻んでいると手が渋みでベトベトに。
助手「なんかこのバナナ固いね」
所長「そーね。バナナというよりは山芋か、瓜みたいだね」
助手「…げっ。しぶいー」
所長「あ、つまみ食いをしたねー。これは生では食べられないバナナだからお腹壊れるぞ」
・油で揚げる作業。かなり水分少なく軽い感じなので揚げ時間も短めで。
助手「パーム油ってなんの油?」
所長「ヤシの実の油よ。日本ではあまりなじみ無いけど、世界で一番沢山生産されている植物油なの」
助手「黄色いね」
所長「そうね。南の国のものだから、気温が低いと固まっちゃうの。そして独特の匂いがあるから、慣れないと気になっちゃうかもね」
助手「くんくん。そうでもないけどー。揚げものの匂いがする!」
・塩をふって完成です。
見た目は「角切りポテトフライ」。コートジボアールではこれを紙袋に入れて、街角で売っているそうです。
また、食事のサイドディッシュとして、卵やエスカルゴなどと一緒にソースをかけて食べたりすると…そのお味は?
助手「…うまい!なにこれ。ポテトみたい」
所長「んー山芋揚げみたいだなぁ」
助手「カリっとしてて中はくにゃっとしてる!んでちょっと、あまい匂いがする!」
所長「確かにそうねー。辛いソースと合いそう!美味しい!!どう?これ毎日おやつにしたら体力ついてコートジボアールに勝てるかな」
助手「うん!ぼく6月14日まで毎日これ食べたいー」
アフリカの美しい自然の中で、ママが作った素朴な手作りおやつを食べながら夕暮れまでサッカーする子どもたちを想像しつつ、
コートジボアールの子どもにも日本のおやつを食べさせたいなぁと思う所長なのでした。
プロファイリングNo.2 アロコ
手作り満足度 ★★★☆☆
材料入手難易度 ★★★★★
味 ★★★★☆
マリアージュ チリソース・サルサソース
Column by ムラカミユカコ/Yukako MURAKAMI
世界おやつ文化研究所・所長
おやつ文化及び午後3時における人間の行動心理を探究する1児の母
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