-017.2つのクリスマス

左:カガティオを叩く時の歌というのがあり、「甘くて美味しいお菓子を出すんだよ~」などと言います。でもいつも叩かなくてもいいのになあ、とガイジンらしく一人で思っています。右:一番上の12歳の従兄弟を喜ばせるプレゼントを選ぶのは本当に大変ですが、まだ3歳のイウはカガティオが出してくれたプレゼントというだけでもうびっくり仰天、信じられない面持ちで包を開けて喜びます。

 

みなさまこんにちは。

 

子供達も冬休みに入り、家族や友人たちとのクリスマスや忘年会などに忙しい時期に入って来ました。今日はバルセロナで祝われている、2つのクリスマスについての話をしようと思います。

 

日本だと、クリスマスと言うと1225日に生まれたと言われるイエス・キリスト、つまり神様の子供の誕生を祝って、その前日の夜24日にごちそうでお祝いし、25日の朝に子供達にサンタクロースから、と言ってプレゼントを渡すのが一般的だと思いますが、このキリスト教スタイルの祝い方は、どうやら世界共通ではないようです。

 

スペインはカトリックの国ですから、クリスマスも当然「イエス・キリストの誕生」を祝う行事として位置づけられてはいるのですが、その中でもここバルセロナのあるカタルーニャ地方では、その祝い方が随分違っているので、最初は私も少なからずカルチャー・ショックを受けました。

 

まず、キリストの誕生を祝う日が、1225日と16日の2日に分かれています。

 

そして1225日のクリスマスにプレゼントを持ってきてくれる人はサンタクロースではなく、「カガティオ」と呼ばれる森の精(?)で、1月6日にプレゼントを持ってきてくれる人もサンタクロースではなくイエス・キリストの誕生を聞きつけてエルサレムへやってきたと言われる東方の三博士なのです。

 

まず第一のクリスマスは24日の夜だけに祝うものではなく、25日のクリスマス、そして26日のサン・エステバの日まで渡り、この間は、「羊達はそれぞれの羊小屋に帰る」日として、皆がいわゆる実家に帰ってクリスマスを祝います。その多くは3、4世代が集まる会になりますから、クリスマスが一日でなく二、三日あることで、子供達にとっても、お父さん側の祖父母たちと過ごす日と、お母さん側の祖父母たちと過ごす日の両方があるというわけです。25日と26日とも正式な祝日なので、26日も十分にクリスマス本番なのです。

 

そしてそのクリスマス会において子供達にプレゼントをもたらしてくれる「カガティオ」は、カタルーニャ地方だけの伝統的な行事の一部となっています。しかも、こちらのクリスマスではかの有名なサンタクロースの存在を脇におしのけてしまうくらいの重要なキャラクターでもあります。これは学校や家庭で、数十センチくらいの長さの丸太に顔や手、帽子などをつけて作られるとてもかわいい人形として表現されるのですが、森からやってきたこのカガティオを12月上旬くらいに迎え入れ、頭に帽子、背中に毛布をかけてやって、毎日ビスケットやみかんなど食べ物や飲み物をすこしづつ与えます。

 

そして皆が集まるクリスマス会で、そのカガティオを囲んで歌を歌いながら彼の体を棒きれでコツコツと叩くと、何日もの間たくさんの食べ物を食べさせてもらったおかげで、なんとおしりから、みんなにプレゼントを出す(!)のです。それが毛布の下から現れるので、歌を歌い終わると皆で開けて喜ぶのです。

従兄弟たちと祝う私達のカガティオは、まず別の部屋に行ってカガティオを一人にしてから(その方がゆっくり用が足せるということで)歌い、戻ってまた加カガティオと一緒にもう一度叩いて歌います。そうすることでプレゼントを毛布の下に用意できるのです)

 

カガティオは字義通りには「う◯ちおじさん」くらいな意味がありますが、なぜ丸太なのか、なぜよりによっておしりからプレゼントなのか、なぜプレゼントをくれるのに歌を歌いながら皆で棒切れでたたいてしまうのか、10年以上この行事を見ていても、不思議なことこの上ありません。

 

そしてこのカガティオはクリスマスに登場するけれど、直接的にはイエスキリストの誕生を祝ってやってきたという存在ではないこともあり、いろいろな宗教と国籍を持つ子供達が集まっているこちらの学校でも、「古くから伝えられている地元の面白い習慣」として、どんな宗教的背景を持つ家族の子供でも気兼ねなく祝えるオルタナティヴな冬のお祝い、という意外なメリットもあるようです。

 

そしてこの1225日が最初のクリスマスとすると、もう一つ、その12日後にやってくる16日のReis(レイス)、つまり東方の三博士がやって来る日を祝う日が第二のクリスマスとなります。イエス・キリストの誕生と関係が深いのは、こちらの方で、起源はイエスの誕生を聞きつけて、星に導かれて何日も旅をして、1月6日にイエスの馬小屋にたどり着いて幼子イエスに贈り物をした、という言い伝えから来ているので、こちらではそれにちなんで子供達におもちゃのプレゼントを渡す日となっています。

 

本当は、先程のクリスマスのカガティオは、おもちゃは出さずにこちらのクリスマス菓子であるアーモンドやチョコレート、卵黄などをふんだんに使ったトゥロンと言われる甘いお菓子やお酒などを出してくれるというのがもともとの習慣だったようなのですが、いつからかサンタクロースの代わりにおもちゃもそこに加わるようになり、結局クリスマスのカガティオにも、1月6日のレイスの日にも、子供達はプレゼントを貰えるという家庭が多くなっているようで、私達も、うちの子供達より大きな従兄弟家族と一緒に祝うこともあって二度プレゼントをあげています。

 

個人的には一親として、クリスマス・プレゼントを二度も上げてしまうのは、プレゼントに対する子供達のうれしい気持ち、楽しみにする気持ちを増大するよりは拡散させてしまうように思うのであんまり良くない気がしているのですが、どの家族も、なるだけ伝統を思い出して、クリスマスは控えめに、レイスは盛大に、子供たちにプレゼントをあげて祝おうと努力する傾向があるようです。けれども結局お互いの家族の子供達にプレゼントを用意する時になると驚かせたい、喜ばせたいという気持ちが強くなってあれもこれもと揃えてしまうので、なかなかプレゼントの数や大きさを減らすのは難しいよです。そして我が家の次男のイウはその2つのクリスマスの間に誕生日があるので、我が家ではさらにできるだけ、それらのクリスマスも良いけれど、誕生日の方をこそきちんと祝ってあげたいなあと思っています。

 

いずれにしても、子供達におもちゃを選ぶときに私達が大事にしたいと思っていることは、子供が包みを開けた瞬間だけ喜ぶおもちゃなのか、それとも本当に後まで楽しんでくれるおもちゃなのか、ということです。そして子供達だけで遊べるものも悪くはないけれど、私達大人も一緒に楽しんで遊べるものなのか、ということも。

最近では、だいぶ「ルール」なるものを分かってきたイウも、すっかりお兄ちゃんらしくなってきた温も、私達大人も皆互角に楽しめるような、カードやボードのゲームが家族のお気に入りとなっています。スクリーンで遊ぶタイプのゲームも特に男の子の居る家庭では避けては通れない道なのですが、家族4人で遊べるおもちゃ、というのをこれからもできるだけ探していきたいと思っています。

 

ではみなさま、引き続き1月6日まで良いクリスマスを、そして素敵な年末年始を迎えつつ、2013年も皆仲良く、どうぞよろしくお願いいたします。


 

左:こちらのクリスマスメニュー、エスクデリャ。合わせてなんと5時間も煮込んで作る、カタルーニャの鍋のような存在かもしれません。中:緑茶にも合いそうな甘い甘いアーモンド菓子、トゥロン。みかんと合わせて食べると意外に美味しい! 右:我が家でも楽しんでいるBrokusというゲームが今年は9歳の従姉妹のクラウディアにカガティオからプレゼントされました。おばあちゃんも一緒に、家族みんなで遊びます。

Column by Tomoko SAKAMOTO
カタルーニャ人でグラフィック・デザイナーのダビ・パパと一緒に
ブック・デザインとその周辺を手がけるSPREAD(www.spread.eu.com)
というスタジオを主催する編集者・ママのコラムです
「遊んであげない。一緒に遊ぼう!」をモットーに
7歳の温(おん)と3歳のイウ、の二人の男の子を育てています