-020.バカンスが終わり…来年もまた、夏の蝶々を探しにゆこう

バカンスの終わりは何だか妙に切なくなる。縁日の金魚釣り、盆踊りの輪を灯すオレンジ色の明かり、かき氷を食べる音、プールの消毒薬の匂い、祖母の家の庭、海の波に世界が揺れる光景…夏のバカンスというのは幼い頃の思い出を誘う風情に満ちているのだ。しかし年を重ねるごとに、あの頃の夏休みの思い出が心のどこかに凝縮されて鮮やかになってきて、それがどんどん遠のいていく感覚すら覚えるのだ。いつも毎年そこにあって、とても楽しい思い出が見つかる場所だからこそ、バカンスが去るのは妙に寂しく、感慨深くなってしまうのかも知れない。しかも、フランスに住んでからというもの、こちらのバカンスにいつもの日本の風情が姿を隠してしまっているものだから、ちょっと複雑な気分になるのだ。

 

今年はフランスで娘が生まれて二回目の夏になるが、特に思い出深いバカンスを過ごした。日本に住む両親の初渡仏。かれこれ1年半ぶりの再会で、しかも母にとっては憧れのフランスに来たのが人生で初めてである。滞在期間の限られている中、あれも見せたいこれも見せたいと、数少ない日数に予定をぎゅうぎゅうと詰め込んでフランス各地をまわり、まるで子連れジプシーになったような気分であった。毎日昨日を振り返る間もなく過ごしたため、両親が帰ってからはやはりぽっかりと心に穴があいてしまい、もともこもない状態になってしまった。

 

空港に両親を見送りに行き、帰った足で残されたいつもの家族三人で夕寝をしていると、部屋のやたら白い壁に貼られた蝶が夕陽をきらきらと浴びながら光っている。近所のレストランのオーナーが、蝶々好きの娘にくれた大ぶりのきれいなステッカーである。毎日娘と見ていたこの蝶々をこんなに眺めるのは両親が来る前のことで、途端にもとの現実の世界に引き戻されるような気がした。バカンスが終わり、両親とまた離ればなれになることへの拒否反応だったのかも知れない。しかし、他に何も見るところがないので、それをじっと眺めてみる。すると、何だかとてもきれいなものに見えてきて、それがこの夏の思い出を胸いっぱいに秘めて羽ばたいている本物の蝶々であるかのようにすら思えてくる。そして、その明るさを帯びた象徴に、少し安心感を覚えるのであった。

 

日本に住んでいれば、いつものように両親とレストランに行ったり、夏には当たり前のように一緒に旅行に行けるけれど、フランスー日本と距離が離れている今、毎年当たり前のように会える状況には残念ながらおかれていない。だから、今回夏に両親が来れたのは夢のような出来事であり、フランスの景色を背景に両親を見ていた毎日は、現実離れしていた体験であった。

 

部屋の壁の蝶々が明るく羽ばたいてゆくように見えた瞬間、思ったのだ。さぁ、これからどうしようと。バカンスは終わった。これからまた、自分の慣れ親しみきった家族がいない中で子育てをしてゆく。ある意味孤独でもある。聞き慣れない言葉と人付き合いの中で、当たり前のように毎日また同じようなことをしてゆく。楽しくてホッとする時間を過ごしすぎたばかりに、それがなんとなく辛く感じる。けれど、私の人生は既に今ここにあるのだから仕方ない。来年もまた、夏の空を自由に舞う蝶々のようなキラキラした思い出を探しに行こうではないか。美しい色をして花から花へと飛び移る蝶々を追う娘と一緒に、素敵な新しいバカンスの思い出を探しに行こう。子どもができるということは、人生を二度生きられるようなものなのかも知れない。自分の幼い頃の日本での思い出を繰り返すことはもうできないけれど、娘にフランスでの夏のバカンスの情緒をつくるという楽しみがあるように思えるからだ。

column by 下野真緒/Shimono Mao
1977年東京生まれ
南西フランス在住ジャーナリスト
女性ファッション誌で編集に携わった後、2009年南仏&パリへ留学
2010年6月にフランス人と結婚。新人ママの道、激進中!
「MYLOHAS」海外ロハスニュース、「GLAM」ファッショニスタほか

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コメント: 2
  • #1

    meiko (火曜日, 11 9月 2012 11:02)

    下野真緒さま  はじめまして、PARIS在住のmeiko(イラストレーター&デザイナー)ともうします。松永麻衣子さんのfacebookを通じて拝見致しました。ジャーナリストでいらっしゃるので、文章がお上手ですね、とは、失礼かと思いますが、臨場感漂う記事に、吸い込まれるように読ませていただきました。なんだか、とっても感動しました。実は、私は、今年の夏、はじめて、フランスの南、いわゆる南仏を、フランス人の友人を通じて、滞在し、日常をエイ!と切り離し、フランス人的、頭をカラにする、バカンスなるものを初体験しました。フリーランスの仕事体制ということもあり、いつも何か、頭に、アレコレしなくてはという考えが横たわっていますから。何もしないというスタンスの滞在で、イロイロ、幼少期からの夏休みのことなど含め思い出したのです、泳ぐ事、ピアノを弾く事、昔、口ずさんていた歌(ユ〜ミンなど)など、両親に今までしてもらったことごとなどなど。。。 これからも、がんばってくださいマセ、Maoさんのコラムを楽しみにしています♪ merci beaucoup((((

  • #2

    mao (火曜日, 11 9月 2012 12:25)

    meikoさん、こんにちは。とっても嬉しいメッセ—ジをありがとうございました。
    フリーランスだと、まず机から離れる決心をしないとバカンスがなかなか始まりませんよね。とっても分かります。
    パリから抜け出しての南仏でのバカンス、目に浮かぶようです。
    バカンスの達人、フランス人とだなんて、世界が随分違った事でしょう 笑!
    心から自由にくつろいで、楽しかったのですね!来年はどんなバカンスにしようか、
    まるでバカンスしか頭にないフランス人と肩を並べて考え始めてしまいました。また一年がんばりましょうね。
    コラムも精度があがるように切磋琢磨して参ります。本当にありがとうございました^^