-018.トゥールーズでの事件に学ぶ。 外国人として子供を育てるということは…

南フランスのトゥールーズで3月に起こったイスラム過激派による計3回、計7人(子供3人含む)もの命を惨たらしく奪った射殺事件。 日本でもニュースで放送されて記憶に残っている方もいることでしょう。自分の子供がそんな目にあったらと思うと、震え上がったフランス人ママンは多かったはず・・・。トゥールーズは我が家のジャジャ(おじいちゃん)が住む街で、ここから車で二時間と、そんなに離れた地域ではない。犯人逮捕もままならぬ何日かは、私も娘を連れて外出するのが恐かった程である。この事件の犯人は、自宅に立てこもった末、警察との銃撃戦で亡くなったのだけれど、その後、サルコジ以来ナショナリストの色が濃くなったフランス政府がとった行動は、イスラム過激派の摘発だった(フランスのこういうところは結構好きである)。その結果、テロ計画に関わっている証拠が見つかったりと、水面下で動いていた闇が明るみに出たのだけれど、二度目の摘発となった4月4日には、計10人が拘束されたのだそう。こんな広い国土のフランス、しかも人口は日本の約2分の1。まさか我が家の住む小さく平和な街に限って、そんなものが存在する確立は低いに違いない。そう思っていたら、なんとこの街では2人も拘束されていたのである。
 
年々移民規制が激しくなってきているフランスでは、外国人が滞在許可書を申請する際に支払う金額はその国によって異なるものの、フランスの給与事情を鑑みると結構高額と言える。例えば、私のようなフランス人と結婚した日本人が支払う金額は、差異はあるものの、3年目までは約90ユーロ。そこから10年カードを申請して受理されればひと安心である。一方、アフリカの某国出身の移民が支払う金額は、フランス人と未婚の場合で毎年300ユーロと高額。ましてや、仕事が見つかりやすいとは言えないアフリカ系移民の方々にとって、これでは長期にわたる滞在をあきらめざるを得ない。でも、フランスとしても、寛容に無料で移民を受け入れていたら、きりがなく外国人の比率がふくらんでしまって、失業率もぐんぐん伸びて犯罪が増えるのも事実。こういう意味で、右派に票を入れる国民が多くなっているのも近年のフランスの傾向なのかも知れない、と肌で感じる。(*このコラムは大統領選挙前に書いたものですが、オランド氏とサルコジ氏の最終戦でも右派のサルコジ氏に48%代の票が入っており、約2人に1人はナショナリスト的なフランス人がいるということです。)
 
一方で、アラブ系やアフリカ系の移民を冷ややかな目で見るフランス人は、ここで生活をしていると少なからず多く存在するのが分かります。ただでさえ失業率が高く、外国人雇用に敏感なフランス人とフランス政府。そうなると、移民に仕事をやる前にフランス人にまず仕事の機会を、という規制が強まるいっぽうで、自然と移民に対する仕事のチャンスがなくなってくる。すると、生活していくために犯罪を犯す移民が増え、それも、アラブ系やアフリカ系移民に多いのだという。だからといって、色眼鏡で全ての移民を見ていたら、それは人種差別につながる。だからこそフランスの法律で規制されている、人種差別に対する罰則も見逃せません。公共の面前で差別的行動や発言を受けた場合、証言者になる人がいれば、裁判所に赴き、その人は罰則を強いられることになっているのです。

 

私の知人のアフリカ系フランス人が子供2人でバスに乗っていると、白髪のフランス人マダムが杖をついて乗ってきたそうです。子供が親切にも立って席をゆずると、「あなたのような人が座っていた席には座りたくない」、など罵倒したのだとか(しかも、子供に)。それを見ていたフランス人のバス運転手は、「逆にあなたのような差別主義者はバスから降りてもらう」と、そのマダムをバスから降ろしたのだそう。これを見ていた周囲の乗客は、拍手喝采。後日、マダムは裁判所に召還され(小さい街なので誰かしらが知っていたのだろうと思う)、罰金を払うことになりました。

こうして見ていると、大部分のフランス人はとてもバランスのとれた人種なのかも知れないと関心してしまう。心のどこかで移民を差別せずにはいられず、だけど色眼鏡で全ての移民を見ることを自制し、なるべく共存しようと努力しているとも見れます。(もちろん、徹底した差別主義のフランス人はいるでしょう)
 
移民であろうが自国民であろうが、移民社会に身をおく者同士、相手に危害を加えないこと。トゥールーズでイスラム過激派の1人が犯した重大な罪から、フランス人による罪のない移民の子供への差別まで。それは簡単なようでいて、根深い社会問題が複雑に絡みあった、お互いに難しい共存ルールなのではないかと思う。それと同時に、ひとつひとつのこういった移民がらみの事件は、自分や家族をも巻き込みかねない大きな社会現象の火種のイエローカード、ととらえたほうがいいとも感じる。何故ならひとつの大事件は、時が経ち忘れられたとしても、身近に起こる社会現象を小さく連鎖的に生み続け、やがてここまで訪れる可能性を持っているから。

 

外国に長年住むということは、慣れ、同化していく本能を発揮して、その国の素敵な文化を発見することとはまた別に、時にはひとつの社会現象から危険を察知する本能を磨くことを要されるに違いない。そして、それが外国で子供を守りながら育ててゆく親の使命なのかも知れないとも思うのだ。

column by 下野真緒/Shimono Mao

1977年東京生まれ
南西フランス在住ジャーナリスト。
女性ファッション誌で編集に携わった後、2009年南仏&パリへ留学
2010年6月にフランス人と結婚。新人ママの道、激進中!
「MYLOHAS」海外ロハスニュース、「GLAM」ファッショニスタほか。