-006.IU'S NEW KINDERGARDEN

次男のイウ(2歳9ヶ月)は、9月から新しい保育園に通い始めました。スペインでは、義務教育は日本と同じく6歳からですが、学校教育は3歳から(公立の学校ならば授業料は無償で)受け始めることができ、両親が共働きの家庭の子供だけでなく、6歳からの学校生活をスムーズに始められるよう、おそらく全体の95パーセント以上の子供たちが3歳から学校に通い始めることを選択するようです。長男の温は先日6歳になり、もう学校も4年目(とはいえ日本で言う小学校1年生)になりましたが、イウは今年、学校に上がる前、保育園最後の年を、公立保育園で過ごすことになりました。

日本だと、新学期は4月に始まり、4月2日生まれの子供が一番大きく、4月1日生まれの子供が一番年下という構成になっていますが、こちらでは、新学期は9月から、そしてどの学年に入るかは、生まれた年によって決まります。つまり1月1日生まれの子供が一番大きくて、12月31日生まれの子供が一番年下ということです。温は10月生まれなのでクラスでは小さめ、一方イウは1月3日生まれなので、クラスで一番年上です。イウを妊娠していた時、出産予定日は12月29日だったので、数日遅れて年をまたいでしまい、そのお陰で学校に入るのが一年あとになってしまいました。私たちにとっては、早くお兄ちゃんと一緒の学校に行けると楽しいのに、という理由で残念だと思っていろいろな家族とその話をするのですが、こちらでは多くの人が、「クラスで一番小さいために授業などについていけなくて苦労するよりも、一番大きい方がむしろいい」と考えているようで、逆に「良かったじゃない」と言われたりもします。日本だとひょっとすると早期教育ということで2、3歳くらいから国語や算数を教えたいとか、願わくはバリバリ勉強させて飛び級させたいというような親も多いでしょうから、そののんびりさ、というか、子供の視点に立った思いやりに逆に考えさせられたりします。

イウは生後4ヶ月から保育園に通っていたので(スペインには妊婦に対する有給休暇は一日もなく、出産後の育児休暇が4ヶ月となっています。皆特に問題がなければ本当に出産ぎりぎりまで働き、復帰も多少時短などの融通が利きますが多くのママが生後6ヶ月を迎える頃にはほぼ完全復帰します。)保育園に通うこと自体は慣れているのですが、何故今年新しい保育園に変えたか、というと、近所の公立保育園の抽選にやっと当たったから、というのがその理由です。保育園には私立と公立があり、私立の保育園もまったくもって悪くはないのですが、補助金を貰って運営されている公立保育園は、「ちょっとびっくりするくらい」環境がいいのです。もちろん保育園によっていろいろな個性や違いはありますが、一般的にはとても広く、パティオなどの屋外施設も充実していて、食事の質が高く(調理師だけでなく栄養士もついていて、なるだけ地元でとれた有機栽培の食材を使って園の充実したキッチンで調理してくれます)児童数は少なめ、担当の保母さん、保育士のみなさんの他、インターンも多いのかもしれませんが送迎時、食事の時間だけサポートしてくれるスタッフさんもかなり充実しています。そして園にときどきプロの劇団や音楽家などが来てくれたりというエクストラな催し物もたくさん。普通ならお金をたくさん払って入る私立の方こそそういう環境が充実しているような印象がありますが、こちらではその補助金制度のために逆になってしまっているのです。そういう公立保育園(しかも我が家のすぐ近くにある)に、温のときから数えて毎年すでに5回も応募しているのですが、5回目でイウの最後のチャンスにやっと、当たった、というわけです。通常公立保育園へ入園するための倍率はとても高く、しかも大家族(子供3人以上)、障害児、そして生活保護を受けている家族の子供などに優先権がありますから、二人兄弟程度の普通の家族の子供が入るのは不可能ではないにしてもなかなか大変なことになっているようです。今までなかなか入れずに悔しい思いをしていましたが、入ってみて改めて思ったのは、大変な事情を抱えている家族に対してこういった好処遇をするという市の方針自体はとても素晴らしい(笑)ということ。スペインはご存知のように大変な経済危機のまっただ中にあるので今後どうなっていくのか分かりませんが、こんな公立保育園がどんどん増えていくと子供を育てやすくなるだろうなあ、とつくづく思います。

そんな訳で、これまで通っていた少し遠くの私立保育園から新しいポルタル・ノウ保育園に移るにあたって、説明会で持ち物や用意するもの、周囲事項を始めさまざまなことを教えてくれる説明会があったので行って来ました。それは全体説明会ではなく、個人面談の形をとっていました。

行って話してみるとなるほど、保育園でそれぞれの子供が必要としていること、それぞれの子供の発達などは、小さな子供の場合、ちょっと月齢が違うと驚くほど違うのですね。イウは前述の通りクラスで一番年上なので、もうオムツもとれていますし、言葉もカタルーニャ語でかなりはっきりと意思表示ができます。バルセロナでは外国人の家族も多いので、良くしゃべるけれどもカタルーニャ語はまったく分からない、という子供もいますし、オムツもして、お気に入りのぬいぐるみやおしゃぶりがないとすぐに泣き出してしまうような小さな子供もいるので、最初の説明会を個人面談にすることで、一人ひとりの細かいニーズをなるだけきちんと把握してくれようとする園の態度にちょっと感心してしまいました。

用意してと言われた物の中で、私達がなるほど面白い、と思ったものが2つありました。

一つは食事の時に使うナプキン。これまでの保育園ではいわゆるよだれかけタイプの実用的なもの、つまり表はタオル地で裏はビニール、紐で止めて食べ物で服が汚れないようにつくられたものを使用していたのですが(家でも使っているのでなんだかんだと合計20枚くらい持っています)、この保育園では、「2歳にもなれば、子供は一人で、大人のように食事全体の雰囲気も大事にして食べるべきです」という指針のもとに、大人が使うものと同じような布ナプキンを、エレガントに(?)首に巻いて食事をさせるのだそうです。そうか、2歳児はもう赤ちゃん扱いするべきではないのだな、というのは親にとってはちょっと気の引き締まる思いでした。そしてほとんどの子供たちは、そのような小さなことでも、大人扱いしてもらえるというのはとてもうれしいことのようで、俄然やる気を出して丁寧に食べるのだそう。ちなみに、家で好き嫌いするわがままな子供たちでも、保育園では一人で、野菜もきちんと全部残さず食べるのだそう。隣の子供が食べるなら僕も、という競争心が湧くのかもしれませんが、この事実にはいつも驚かされます。

もう一つは、名前プレートの代わりに使う子供のロゴまたはイラスト、というもの。当然ここの園児はまだ1,2歳の小さな子供なので文字が読めません。そこで普通は保育士さんや保護者がそれぞれの子供の持ち物を名前の書かれたフックにひっかけたりすることが多いと思うのですが、文字の読めない子供にも自分の持ち物をしっかり管理して大事にしてもらおう、という指針のもと、文字の代わりになるポストイットサイズの小さな絵をそれぞれの家庭でそれぞれの子供に用意するようにと言われました。大好きなキャラクターでもいいし、何かのコピーでもまったく構わないけれど、他のこどもと違うもの、名前の代わりに読めるロゴとして使えるものを、と指示を受けました。我が家ではイウの好きなものをあれこれ聞いては考えて、本人に何度かダメ出しも受けながら(笑)オレンジ色の電車を切り絵で作りました。それをジャケットやカバン、タオルなどをかけるフック、着替えを置いておく棚、日誌の表紙など合計10カ所あまりに貼り付けます。すると驚いたことに、最初は自分のロゴだけを識別して嬉々として自分の持ち物をしまいに行くのですが、数日もすると、どの子も他の子供のロゴまで覚えだすようになります。そしてしまいには、まるで文字を読むように、たくさんの絵を「これは誰の、これは誰の」と区別できるようになるのです。なるほど、まだ文字を読めない子供の識別能力をあなどるべからず、と見ていてびっくりしてしまいました。

 

新しい保育園が始まって、もうふた月近く経ちましたが、毎日本当に楽しそうに通っています。特に、言葉を話し始めるこの時期、人や物の名前をどんどん覚えていけるのがそれはそれは楽しいらしく(たったそれだけのことでみんなにうんと褒めてもらえるのもこの時期だけですしね)おしゃべりなことこの上ありません。そして午後迎えに行くと、本当に嬉しそうにこちらへ駆け寄ってきて抱きついてくれるのも親にとっては幸せなひとときです。一人目の子供が小さかった時は本当に毎日を生きるのが精一杯だったような気がするのですが、二人目は親側に余裕があるせいもあって、子育てもずっとリラックスして来たような気がします。では今回はこの辺で。また次回お会いしましょう!

Column by Tomoko SAKAMOTO
建築とデザインの出版社Actarにて編集の仕事をしながら
カタルーニャ人でグラフィック・デザイナーのダビ・パパと一緒に
「遊んであげない。一緒に遊ぼう!」をモットーに
5歳の温(おん)と2歳のイウ、の二人の男の子を育てています。