-014.ナゾのため息と共にフランスの美容院を初体験

ほとんどのフランス在住の日本人にとって、現地のフランス人経営の美容院に行くのは至難の業といっても良い。たいていの人が予想とは大分違った仕上がりにショックを受けた、などという噂を耳にしているに違いない。中でも多いのが、「やたらとシャギーにされた」など、毛先の切り方の違い。それを伝える際の言葉の誤解。日本の美容院はサービスも技術もコミュニケーション面でも、日本人にとって申し分のないものだから、こんなストレスをためるくらいなら帰国まで美容院行きを待とう、という人が大多数。でも、帰国予定がない年にどうしても髪を切りにいかなければにっちもさっちもいかない状態、という時には、たいていの人は覚悟を決めて現地の美容院に向うのだ。

 

しかもこのフランスの美容院、選ぶのに大分苦労をする。何故ならうちのアパートの下には既に3軒おきに3軒、というかなりの数の美容院があるからだ。街中でよくみかける看板と言えば、薬局、美容院、銀行の繰り返しと言っても過言ではないかも知れない。選ぶなら、ちょっと冴えないインテリアのところは要注意。あまりにヒマなのか、タバコ片手に「bonjour」と普通に微笑んだりされることもある。

 

私が選んだのは、「イギリス人のムシュが経営していて英語が話せるから理解してくれるらしい」と聞いた「ジョアン」(単純にそのムシュの名前。日本だったら「ひろし」とかそういう感じに違いない)。
フランスの美容院の料金システムは、日本と同様スタイリスト毎に規定があるが、一番の違いは、髪の長さによって料金が大分変わってくること。ロングとショートの差はなんと15ユーロだった。

 

さて、フランスで初めてのシャンプー&カット。シャンプーはチューブに入った香りがやたらよすぎる液体を地肌に直接つけ、クシュクシュと手ですり込むと泡がたつ。シャンプー台に行かずに鏡の前でできて、自然とマッサージがてら髪を洗える仕組みのよう。これは大雑把な性分のフランス人にうけているに違いない。次に、一番肝心な、「どんなふうに切って欲しいか」を伝える大切な瞬間。「シャギーではなく、毛先を軽くして、全体にボリュームを抑えたい。シャギーではなくて!」と熱心に伝えると、オーナーは一生懸命言葉を言い換えて理解しようとしてくれた。その結果、私がどんなにフランスのシャギーがいやかということをとっても分かってくれたようで、これだけでぐんと不安が解消されるのだった。

 

実際に髪を切る時に、フランスでは髪がぐっしょりと濡れたままの状態で髪を切る。スタイリストのお姉さんは、ハサミではなく髪を削ぐ専用の器具でガシガシと私のボリューミーな髪を一生懸命そぎ落としている。しかし、なかなかそぎ終わらないのか、「ふぅー」とか「はぁー」とかため息をつきながら続けるものだから、この態度にはあきれてしまった。意地悪い感じでもない、このため息は何だろうか。疲れたとはいえマイペースすぎる接客にまずハテナ? しかも、こちらが客なのに申し訳ない気分になるから不思議なのだ。フランスに住むようになって、外国人という立場だからか、自分が怒ってもいい場面で怒り損ねることが多くなった気がする。こういう場面で何か面白い皮肉が言えるようになったら大したもんだなと思うのだ。ちなみに、私はハサミで一生懸命切ってくれるほうが何となく髪にもダメージを与えない気がして好きではあるが、芯から働き者でないフランス人にそんなお願いをするのも酷な気がして耐えていた。それなのにこのため息。やれやれ、である。

 

続いて、やっと彼女にとって重労働らしいカットが終わった後は、ブロー。日本ではブラシなど使わずに自然な髪の流れを利用しながら乾かしてシンプルに終わっていたが、こちらではまず髪をブラシに巻き付け、そこに高熱のドライヤーをぴったりとあてながらひと束ひと束ブローしていくのだ。「髪が焼ける~」、とハラハラしている私の心配をよそに、また彼女は疲れたのか、「ふぅー」とか「はぁー」とか言いながら、カットの倍程の時間をかけてブローし終わっていた。ちょっと会話を楽しもうとか、そんなサービス精神は0らしい。

 

この違和感だらけの美容院での時間の流れ。堪え難い沈黙に響くスタイリストさんのため息。どこへ行っても何かしらハテナがあるのだろうか。何回か通えば少しは会話も弾むのかもしれないけれど、ため息をつかれてまでまたお願いするお人好しもいないだろう。これで日本人のように、カットの途中で「大丈夫か」と様子を伺ったり、世間話をしたりする気遣いがあればまだ違うものの、この感じはどうも居心地がいいとは言えない。10年間通っていた東京の美容院とそこでの楽しい会話を懐かしむ気持ちでいっぱいになってしまう。しかしフランスで生活する以上、美容院はいずれまた行くことになる。次はフランス人の友人が感じも仕上がりもいいと言っていたところを試してみようと思うのだった。(フランス人にとっての感じの良さ、未だ不明。)

column by 下野真緒/Shimono Mao
女性ファッション誌で編集に携わった後、フリーランスエディターに
2009年南仏&パリへ留学し、現在は南フランスのピレネー・バスク近郊に住む
一児の母でもあり、フランスでの子育てに邁進中
また、GLAMファッショニスタとして「南フランスにのいい予感。」にてフランスのライフスタイルを紹介中
ほか、美容サイトでフランスのコスメ紹介をするなど、フランスを拠点にマルチな情報発信を試みています

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コメント: 1
  • #1

    Terrell Felipe (日曜日, 22 1月 2017 10:33)


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