-012.平和主義は続かない?! 騒音バトルの末に<前編>

結婚してすぐお世話になっていた彼のママンの家から、やっと自分たちのアパートに引っ越し、1年が経とうとしていた。しかしこの1年、常に上の階の住人の騒音に悩まされ続けたのであった。

 

引っ越した当初、快適!と思ったのも束の間。朝6時になると上の階から洗濯機をまわすような音で目が覚めてしまい、その後眠れなくなる日が始まった。しまいには、毎朝5時半になると騒音の恐怖から目が覚めるようにまでなる。耐えて様子を見ること2週間、我慢も限界になり勇んで上の階へと駆け上がる。「もし間違っていたら大変申し訳ないのだけど、毎朝6時~7時に洗濯機をまわすような音がするのは、お宅ですか?妊娠後期で眠りも浅く、さらに眠れないから辛いのだが。」と言いに行ったことがあったのだ。

 

すると、「うちはお宅と同じような間取りで、洗濯機もキッチン。お風呂場から聞こえるのなら、うちではない。お宅の下の階のカフェが営業前に食洗機をまわしてるのでは?」と旦那に言われて終わった。しかし何だか腑に落ちない。確かに音は、上の天井から壁を伝い、その壁に密着しているベッドを伝って届いている。しかも、話した翌日からパタリ、とこの音がなくなったのも妙だった。そしてそのまま、上の階の住人とは顔を合わすことがなかった。ちなみに彼らには赤ちゃんがいて、その泣き声も夜中筒抜けという、困ったつくりのアパートであった。

 

やがて2カ月ほど経ち、出産して無事に家に戻ってくると、我が家のbébéは2時間置きに泣いてミルクを欲しがる毎日へと突入。そんな頃、ポストに上の階の住人から「昨晩泣き声が聞こえました。出産おめでとう、何かあったら遠慮せずに聞いて下さい。」というニュアンスの手紙が入っていた。その数日後には、なぜか9カ月用の未使用のパジャマとドゥドゥ(赤ちゃんが寝る時いつもそばにおいておく布のお人形)を持ってきてくれた。「今は外出も難しいし自分と赤ちゃんのことでてんてこまいだけど、そのうち何かお返ししないとね、なんて優しいんだろうね」、と旦那と感動していた。と、ここまでは良かった。そこからは、上の階の住人の赤ちゃんの歯が生え始めた時期のようで、頻繁に泣く声が聞こえた。我が家の赤ちゃんは、2カ月目から夜ぐっすり眠ってくれるようになり、ほとんど手がかからなかった。ただ、お互いの赤ちゃんの泣き声や、何かものを動かす音ひとつでも、私自身が頻繁に目を覚まし、年中寝不足の状態が続いた。

 

こうして上の住人の騒音が苦痛でたまらない日々が続き、「ああ、本当に引っ越したい」と思い始めるようになる。朝の6時には、ときたまやはり機械を動かす音が聞こえ、起きてボレをガラガラと開け、タンスを閉めたり器を机にコンと置く音が機械音のように壁を伝って頭上から鳴り響き、みるみると目が覚めてゆく。さらに上の住人の赤ちゃんが泣く度に、ガタガタガタ、と恐らくベッドからガタイの良いマダムが飛び起きる音が鳴り響き、ほとんど15分おきの騒音で平穏に眠れない。こちらも小さいbébéを抱え、疲労も頂点。 

 

そんな時、上のマダムが夜の22時過ぎに我が家のチャイムを鳴らしに来た。「お宅で何か机や椅子を動かしているか。うちの子が音に敏感で目を覚ますから静かにして欲しい」と言われる。動かすといっても、座るためには椅子をひくし、食べ終わったら椅子をしまったりする程度。「分かりました」とは言ったものの、何カ月にも及ぶ彼らの騒音で、半ばノイローゼにもなりかねない感じだった私は、その自己主張だけしてゆく傲慢さにびっくり。な、に、を?!言っているのか。

 

上の階に、下の階の椅子をひく音が鳴り響く程うるさいのだろうか。こちらは朝から晩まで、上の騒音に頭を抱え、ついつい親切なことをしてもらったことがきっかけで、何も言えずに我慢し、ストレスをためていたのに―――、と。お互いさま、という感覚がないのだろうか。

 

結局、上の階の住人と階段で遭遇して「元気ですか?」と挨拶される度に、寝不足で顔色の悪い私は「ああ、はい。そちらは?」と言うだけ。何度も喉の奥まででかかった、「お宅の生活音で眠れずに元気じゃないんです!」という言葉を押し殺し続けるのだった。

 

やがて、上の階の赤ちゃんが歩くようになったらしく、朝7時になるとタッタッタッタ、と靴を履いて力いっぱい走り回る音で目が冴える。そして我が家の赤ちゃんもその轟音で目を覚まし、大泣きをする。私は朝6時からの上の階の例の生活音で既に目を覚ましているものだから、これはさらなる騒音の追い打ちである。これが3カ月程続き、心労が耐えずいよいよ深刻になってきた私は、ついに朝9時にチャイムを鳴らしに上の階にのぼることになる。

 

「うちも子供がいるから本当に言いづらいのだけど、午前中早くに靴をはいて家を走るのだけはやめてほしい。部屋が揺れる勢いで音が鳴り響き、もう大分前から睡眠不足がずっと続いている。うちの赤ちゃんにしてもまだ小さいから、長時間眠る必要があるんです」と伝える。悲しいかな、こうなったらもう、親切にしてくれたこととは別の次元に今、お互いにいるのである。
すると、「分かりました。でも普段家では靴をはいていないんですよ。響くから、私もヒールは履きません。」と言う。しかし、マダムの横にちょこっと現れた子は、ちゃっかりしっかり靴をはいて興奮している模様。「あれ?靴、はいていますよね?」私はもう、引き下がらず目線をお子様にうつしながら言ってみる。マダム、少しきまりのわるそうな顔。しかし続ける。「うちは、テーブルや椅子の下には絨毯をひいて音を出さないようにしているんです。うちの子は車のおもちゃでガラガラと廊下を走ったり、それと赤ちゃん用浴槽をガラガラと引いたりすることもありますけど。あと、朝お宅に聞こえる音は、たぶんうちの乾燥機の音です」と、マダムは尋ねてもいないのに「うち事情」を陳列してゆく。しかしそのついでに、何だか重大なことを言ってしまった様子。「やはり!朝6時に乾燥機、使ってたよね?!私のここ何カ月かの睡眠を奪い続けていたのは、やはりこの人!」と、この事実にしばらく内心呆然。いかにも、自分たちの生活と騒音について説明していて、だから音がしてしまうのね、以上。的な、つまり、「だから許せ」というようないい方。なにこの論理法?アフリカ式?フランス式?としばし私は混乱した。(マダムはオリジンがアフリカ。)

 

とりあえずこちらの状況を氷山の一角だけは伝えられたと、複雑な気持ちでベッドに戻って束の間の睡眠を死にものぐるいでとる。そして、この状況が解決されることはないだろうなと、絶望的な気持ちを抱いていた。案の定その3日後、朝から掃除機をガタガタとかける音でビクッとして目を覚ます。午前中はなるべく気をつけて下さい、って話しましたよねっ?!と、今度は迷いもなく、上にまたのぼってゆくことになった。こんな醜い騒音争いで疲労困憊した末、いよいよ我が家はアパート探しを本格的に始めることになる。
 

そんな中、ある日最後の一打をくらう。

 

後半へ続く。。。。

女性ファッション誌で編集に携わった後、フリーランスエディターに

2009年南仏&パリへ留学し、現在は南フランスのピレネー・バスク近郊に住む

一児の母でもあり、フランスでの子育てに邁進中

また、GLAMファッショニスタとして「南フランスにのいい予感。」にてフランスのライフスタイルを紹介中

ほか、美容サイトでフランスのコスメ紹介をするなど、フランスを拠点にマルチな情報発信を試みています