-005.雪の日.第四週目

1月某日の箱根。私たちが何も知らずにグッスリ眠り込んでいる間に、上空から粉砂糖を間違えてひっくり返してしまったかのように大雪が夜通し降った。朝起きたら一面真っ白。路面も車も20cm以上も雪に覆われた。これで家に帰れるの? という心配をよそに、父の心はウキウキしていた。さながら、雪やコンコンあられやコンコン♪の犬である。

そして、もうひとり、眠っていない間の多くの時間を、走ることに費している息子。そんな息子を横目にチラリと見れば、父同様ウキウキしてることを隠す気配もなく、目はキラキラ輝き、鼻息も荒く、「パパ、雪だよ! 外に行っても良いんでしょ?」と居ても立っても居られない様子。「絶対走ったらダメだよ」と釘をさして、まずは小手調べとばかりに靴を履かせて庭に出してみた。

絵本や映像では雪は見たことはあっても、始めて肉眼で見る雪は衝撃的な眩しさだ。雪の中へ出てみると、靴の中に入り込む雪も、手で触れる雪も冷たいこと冷たいこと! 庭に出て雪にまみれた息子は這々の体で、逃げ帰ってきた。

 

不思議なこともあるもので、雪が降ることは予想だにしていなかったが、何故か出がけに自分の分と、息子の分の手袋はリュックに放り込んできていた。息子の は毛糸製、父の手袋は革製、ダメになることは覚悟の上だが、手袋無しで雪遊びは不可能だ。次は靴。数分でびしょ濡れになってしまうし、滑って危険だから、 防雪具としてビニール袋を履かせて、その上にぐるっと輪ゴムを巻いた。完璧にはほど遠いが雪対策は完了だ。

 

再度外に出て2人で雪だるまに挑戦することにした。サラサラの粉雪なので、固めるのも一苦労。胴体は父が、頭は息子という分担にして、ゴロゴロゴロゴロ雪を転がし、30分もしないうちに2人とも湯気がでるほど汗をかいた。父と子は取り付かれたように雪を転がし、そして適度な大きさになったところで、胴体に頭を乗せた。何も用意がないので、石で目とボタン、葉っぱを二つ折りにして口にし、木の枝で可愛い鼻をつけたらできあがり!とても可愛い雪だるまに、息子もとても誇らしそう。そして、私たちが作った雪だるまは、通りかかる数人の家族や大人達の心を和ませ(数人は立派なカメラで微笑ましく撮影もしていった)、また別な家族の子供達は可愛い雪だるまに興奮を隠せないでいた。そういう人々を息子は何ともいえない顔で眺めていた。

部屋に戻って汗を乾かし、濡れた服を乾かしに戻った。20分後、庭に戻ってみると、私たちの雪だるまは子供たちに壊されていた。胴体の横に頭だった雪の固まりが転がり、胴体も割れていた。チラリと息子を見ると、息子は口を一文字に結んで、声を出さずに泣いていた。私は息子の頭をポンポンと叩いた。壊されたことは悲しいが、それ以上に一緒に雪だるまを作るという経験ができ、とても可愛い雪だるまを完成させ、多くはなくとも数人の人々にも喜びを与え、それに喜びを見いだした経験は大きい。それを私も息子もずっとずっと忘れないだろう。

Column by LIGHTWOOD/ライトウッド
IT 業界の会社を経営しつつ、現在3才になったばかりの息子の父で
どんな事でも創造する楽しさを教えたいと奮闘中
なるべくデジタル玩具から遠ざけたいと考える父と
父の寝てる間にiPhoneを使いこなすデジタル・ネイティブな3才の息子との闘いが日々続いている