-010.フランス人の彼による 赤い肉と一点集中の美学!?

よく私は小さい頃から、「外国人になりたい」とか「外国人と結婚する」とか、何を見てそう思ったのか、不思議な発言をしていたそうだ。やがて大人になり、仕事に打ち込み出してからすっかり忘れていたその願望が、気付かぬうちに達成されることになる。言葉通り、フランスで生活する「外国人」になってしまった。そんな外国人の私から見ると、フランス人の彼の行動には時々目を見張るものがある。例えば、フランス人は平気でお皿に残された食べ物をドバッと捨てる。ハラハラするほど思い切り。もちろんご飯の塊だってそう。「残り物は小皿に移し替えて次の日煮たり焼いたりして食べるものでは・・・」という私の新種の反応に、最初彼は驚いていた。そんな彼に、延々と一粒残さずご飯を食べなければならない理由や寓話を説明したりする。そして、行く行く娘の教育にもよくないから、残さず食べる習慣をつけてもらうようにお願いする。彼が日本の文化が好きだからまだ良かったものの、特に眼中にないというタイプだったらどうなっていたことかと思う。

私にこんな手放せない習慣があるように、彼は赤い肉を良しとする。ソシス、ジャンボン クリュ、パヴェ ド ブッフ、マグレ ド カナル。牛肉やマグレ ド カナルは驚く程赤いセニョン(レア)で食べるのが当たり前。日本の焼き肉屋でよく焼いて食べるのを見て、「こんなに焼いてもったいない」と、驚いていた彼である。一度、結婚式の一週間後にレストランで大げんかをしたことがあった。それは、肉の焼け具合をめぐった小さなことがきっかけであった。牛肉を頼んだのだが、焼き方を聞かれなかったからすっかり言い忘れてしまい、来たものにそのまま手をつけた。ナイフで切った瞬間、生々しく赤い汁がしたたる、あきらかに野性的な食感の肉そのものだったのだ。そこで、私は「焼き直してもらわないとさすがにこれは食べれないから言ってもいいか」と彼に聞く。すると彼は、「フランスの肉はこういうものだし、レストランの人もこれをいいとして出したのだから。今更言うのも・・・。」と言ってあまりいい顔をしない。「でも日本ではよく焼いたものしか食べたことないし。狂牛病とか恐いし。」と、しばらく押し問答を繰り返し、妊娠中でどうしても肉を欲していた私はあまりの空腹もあいまって泣き出し、大げんかに至った。それくらい、彼の中では肉は赤いまま食べてなんぼのもの、との美学がある。しかしそれ以降、どんなレストランに行っても、彼は私の肉を頼む際、「本当にしっかり焼いてください」と付け加えるようになった。本当に、というところが毎回笑えて仕方ない。

また、フランス人の彼の行動を見ていて面白いことは、一度にひとつのことしかしないこと。「できない」のではなく、「しない」のである。そして、本人は覚えているつもりだけれど、その後、いくつかの課題は忘れ去られ、明後日まで実行されることがない。かわいく言えば、のんびり屋さんでもある。いつかフランス在住の友人とレストランに行った時、日本だったらすぐに「いらっしゃいませ」のひと言を言うものの、視界に入っているのに一向にこちらを迎え入れる気配がない。これぞ人種差別?と思ったら、「フランス人はひとつのことをきちんと終わらせてから次にとりかかる教育を受けているらしい」とその友人。彼女の言う通り、その店員さんは、5分後に用事を終えたのか、にっこりと「何名ですか?」と私たちを迎え入れた。きっと彼もこんなタイプ。ただ、ひとつのことを終えるとその達成感が大きいからなのか、次への行動までに自分を存分に甘やかすのだ。まさに、チーズとワインを手にしてくつろぎ出す。次の課題に手をつける様子が一向に伺えない。私だったら一度に全てやるべきことは終わらせないと気が済まないのだが。

 

一点集中タイプと言えば、食べ方ひとつをとってもそう。前菜、メイン、デセール、と順序だった料理の出し方はフランス流。でも、ごはんとみそ汁は交互に食べないと美味くない。私が日本食を作っても、ごはんはごはん。おかずはおかずで食べられてしまうものだから、一挙にテーブルに並べるとどれかが必ず冷めて見るからに美味しくなさそうなのだ。もちろん牛丼を作っても、牛肉を食べ終えてからごはんへ突入。一度「何故同時に食べられないのか」と尋ねると、「口の中で味が混ざるから」とのこと。魚には白ワイン、チーズや肉には赤ワイン、と口の中での味わいを考える食べ方を崩さない彼なのだ。一度に全てテーブルに並べる日本の食卓は、彼のルール外のやり方なのだった。こうして外国人の私は、彼の赤い肉への執念と一点集中の行動、そこに宿る美学を理解して初めて、フランス文化に歩み寄るのであった。時に、なんと面倒な結婚を選んだことか、と思ってしまうのも事実。しかしこれがなければないで、今となっては物足りないのかも知れない。

column by 下野真緒/Shimono Mao
1977年東京生まれ
女性ファッション誌で編集に携わった後、2009年南仏&パリへ留学
フリーランスエディターを続ける傍ら、2010年6月にフランス人と結婚
南仏ピレネー近郊に住む。新人ママの道、激進中!