-004.タオルにまでアイロンかけ!? 彼のママンとの嫁入り生活

ふたりの新居が見つかるまで、Orthezというおとぎ話のような小さな村で、彼のママンとの生活が始まった。家の裏には周囲2キロ弱の湖と13世紀の小さなお城、centre ville(中心街)には数えられるだけの通り。
 結果的には一方的に面倒をあれこれ見ていただく生活に。妊婦だからという理由で、毎日の昼食や夕食、しまいには、私の妊娠申告書(これをsecurité socialに提出すると、出産給付金やマタニティ医療費100%返金やらの恩恵が受けられる)や移民局手続き、いろいろな政府援助手続き(彼がまだ大学院生の為)までいろいろ率先して仕切ってくれるのでした。はっきり言って、彼のママンはスーパーママン。ちょっとした小物の修理から何でもこなせる。それもそのはず、日本ではあまり見上げたものではないかも知れないが、これまで3人の男性との間に計4人の男子を育てあげた。現在57歳にして、12歳のきかん坊男子を育生中。と、人生で数々の苦労をしている分、何だってできる、裏技をいろいろ知っている。
それでいて、とっても親切で、誰のことも面倒を見ようとしてくれる。近所に済むハンディキャペの人達はみな彼女を慕って頼ってくる。ママンとスーパーに買い物に行くなら大変。立ち話にずっと付き合わなければいけない。
と、私がママンとの生活で学んだことをちょっと箇条書きでお伝えしましょう。

◇猫のおしっこと汗だくの洗濯物には・・・
例えば、飼い猫が洋服や靴の上でときたまピピ(おしっこ)をした時は、Vinegre(酢)を加えて洗濯をするとすっかり臭いがとれるのだ。これは、体毛の多いフランス人の体臭にも使えるそうで、汗っかきっ子の衣類にも効果的なのだとか。

◇かなり入念!野菜の洗い方
フランスでは、トキソプラズマという妊婦の大敵の病が結構多いそう。妊娠初期にかかると、奇形児が産まれたりする恐ろしい菌で、日本と違って、毎月ラボラトワーで採血して検査をする慎重っぷりです。中でも「土で育つもの」に潜んでいるとのことで、サラダ類は徹底して洗うように教育された私。家庭で食べるひとつ65サンチウム程のレタスは、一枚一枚ちぎってゆすぎ、さらに細かくちぎって傷んでいる部分は除去。容器に入れて最低3回は新しい水で洗ってから、水切り機にかけるようにと少しマニアックなママンは私に教育してくれました。当然、レストランに行くと、「あなたは食べてはだめ」とサラダ類は取り上げられます。よほど箔のあるレストランでない限り、外食サラダは、よく洗われていないようです。

◇アイロン台の前で1時間以上
日本の友人にアイロンってかける?と尋ねると、決まって「嫌いだからかけない」、という返答。サラリーマン家庭だったらシャツやスーツはクリーニング屋さん行き。日本人は働く時間も長いから、優雅にアイロンをかける時間も労力も惜しむのだ。でも、ママンは彼のTシャツにまでアイロンをかける。これは付き合っている時から彼の様子を見てなんとなく知っていた。でも、タオル(キッチンものも含む)やDrap(シーツ類)にまでアイロンをかけると知った時は驚いた!「しわがあると美しくないから」かけるのだそう。ママンに「私はアイロンはかけないと思う」と宣言していた私だが、いざ彼とのふたりの生活が始まってみると、少ししわが目立つ彼のものにはいたたまれずアイロン掛けをするようになった。ママンだったらかけるんだろうな、と妥協です。日本では自分のちょっと高価なワンピースでさえ、風呂場のスチーム干しでしわとり、的に過ごしてきたのに。後にフランス人の旦那をもつ何人かの友人に聞いてみると、どのママンもタオルやシーツにまでアイロンをかけるのだそう。フランスのママンは、アイロン好きなのだ。

◇ママンの料理
日本にいた頃、私は果物を食べる余裕のない生活をしていた。果物を食べるなら、もうひと切れ肉を!的な食生活。でも、フランスでは果物が日本ほど高価でないからか、毎日欠かさず食卓に並びます。妊婦だったから余計欲したのか、おかげで私は6月はcérise(さくらんぼう)、7月はひたすらpéche blanche(白桃)を毎日のように食べて過ごしました。ママンはpécheをひとつひとつ入念に選んでケース買い。時に国産melon(メロン)が1ユーロちょっとで買えたりすると、それに生ハムをのっけて前菜に。そんなお買い物にくっついて行ってたものだから、ママンと離れて暮らす今、すっかり果物の選び方が上手になった気がします。
 もうひとつ、ママンの家族誰もが大好きだったRaclette(ラクレット)という料理。ラクレットの日は、garçon共のテーブルへの群がり速度がなんとも早い。
これは、湛然にゆでたジャガイモに、特性アパレルでトロトロに溶かしたチーズをかけ、時たま生ハムなどと一緒に食べるもの。私はじゃがいも2個、チーズ6枚でお腹がいっぱいになりますが、フランス人はじゃがいも4~5個、チーズ10枚以上はいけるようです。
 一方、ママンが疲れている日の夕食は、クロックムッシュー、冷凍ピザ、シュクレのクレープだけで愕然とすることも。こうして家計と労力のバランスをとっているのだ。

column by 下野真緒/Shimono Mao

1977年東京生まれ
女性ファッション誌で編集に携わった後、2009年南仏&パリへ留学。
フリーランスエディターを続ける傍ら、2010年6月にフランス人と結婚
南仏ピレネー近郊に住む。現在出産を控え、新人ママへの道まっしぐら!